メアリー・ノートンの「床下の小人たち」をモチーフにしたフランク・チキンズの5枚目のアルバムです。「床下の小人たち」はスタジオ・ジブリの2010年作品「借りぐらしのアリエッティ」の原作となったことで一躍日本でも有名になりました。

 フランク・チキンズのホーキ・カズコは10歳の時にこの作品を読んでイギリスに魅かれ始めたそうです。「床下に住む人たちが上に住む人間のものを盗んでくらしているこの話は未だに世界の名作だと思っている」と綴っています。

 タイトルもジャケット写真も床下の小人たち、そうなると、ホーキさんはアリエッティということでしょうかね。私もホーキさんに感化されてこのお話を読み、随分感動したことを思い出します。「100%借り暮らし」の私はハリー・ポッターよりもこちらが好きです。

 この作品は彼女が資生堂「花椿」に連載していたエッセイをまとめたアートブック「ロンドンの床下」と同時に発表されました。メディア・ミックスです。総合的なパフォーマーであるフランク・チキンズ=ホーキ・カズコにとっては最もふさわしい発表の仕方です。

 フランク・チキンズ第6期はカズコ・チカ・レイの三人がメンバーとなっていますが、もはやホーキさんを中心とするパフォーマンス集団です。1993年には英芸術庁の後援を受けて、英国国内ツアーを敢行しており、グラストンベリーにも出演する狼藉ぶりです。

 この作品はステージで披露している曲に加えて、彼女の別プロジェクトであるIOU劇団のショーの曲も加えた楽曲集になっています。「フランク・チキンズ・コミュニティーが一同に会して、ワイワイガヤガヤと真剣に遊びながらつくったLP」です。

 この頃のステージはホーキさんを中心にチカ、レイの他にも多くの人びとが参加して、大勢でわいわいやるそれはそれは楽しいショーでした。見に行った私も、いい所に来たと、客席からステージのビデオ撮りを頼まれたのは良い思い出です。コミュニティー感が嬉しかった。

 サウンドはお馴染みのクライヴ・ベルとアンディ・ピーク、それにクライヴとともに前作をプロデュースしたディーン・ブロドリックの三人が中心です。クライヴの尺八を含むオリエンタル感あふれる仙人風のサウンド作りが心地好いです。

 ブックレットには各楽曲に係わる一言コメントが添えられています。中でも「あの子変な子」に添えられた「学校でのさまざまなプレッシャーの話。勝手にやりたい!」は、学校を社会とすれば、ホーキさんの生き方そのものです。四半世紀を経てますますリアルさを増す曲です。

 ホーキさんは自由に生きていらっしゃいますが、社会人としても社畜サラリーマンなど及びもつかない極めてまっとうな人です。日本人であることにこだわるわけでもなく、だからといってこだわらないことにもこだわらない。至極、自然に活動されている。

 チキンズ・コミュニティーはそんな人びとの集まりで、ほとんど女性ばかり。日本社会にはそうしたまっとうな社会人を受け入れる器量がないのは悲しいことです。狭量さを増す昨今、こういう音楽こそが必要だろうと思います。考えさせられる作品です。

参照:「ロンドンの床下」カズコ・ホーキ(求龍堂)

Underfloor World / Frank Chickens