誰もが驚いた8人イエスの作品はその名も「ユニオン」です。邦題は「結晶」とされましたが、ここは「同盟」とでもしてほしかったです。なんたって、イエスの黄金期を支えたメンバーによる二組のバンドが一堂に介したわけですから。それに中身は「結晶」とは程遠いわけですし。

 アルバムに記された本作の経緯が面白いです。アンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウ組はプロデューサーに選ばれたジョナサン・エライアスとともに2枚目のアルバムに取り掛かっていました。この時、もう一方のイエス組はロスで新曲を制作中でした。

 ABWHのボーカル・トラックを録りにロスにやってきたジョン・アンダーソンはイエス組の新曲にボーカルとして参加することとなり、逆にイエスのクリス・スクワイアはABWHのトラックにコーラスを付け加えることになります。ならばいっそ一枚のアルバムを作ろうじゃないか。

 これが公式発表です。レコード会社の暗躍は、クリスと険悪な仲だったABWHの面々の気持ちは、ジョンの思惑は、と突っ込みどころは多いですが、とにかく二つは完全に一緒になるのではなく、ボーカルがホールディング・カンパニーとなってグループ企業にまとまりました。

 ABWH組の楽曲とイエス組の楽曲が共存し、さらにスティーヴ・ハウのソロ曲まで組み込まれたアルバムは大名跡イエスの名前で発表されました。しかし、8人が顔をそろえた曲は一つもありませんし、とても「結晶」とは言い難いです。

 それでも驚くことに8人イエスはツアーに出ました。やはりイエスの名前は強く、アルバムのヒットと共にツアーも大成功に終わります。しかし、こちらは驚きではありませんが、ツアー終了直後に8人の結束は破れ、ビル・ブラッフォードとリック・ウェイクマンが抜けています。

 さて、アルバムですが、先行していたABWH組の楽曲が実は完成度が低く、デモ段階だったはずのイエス組の楽曲の方がそのまま使える状態だったのだそうです。そのため、前者の曲ではBWHの演奏の多くがスタジオ・ミュージシャンの演奏に差し替えられています。

 眠っていても演奏できるはずの達者な人たちばかりなのに、心が一つにならないとなかなか厳しいのだなあということを再確認いたします。大物の離合集散は難しいものです。とはいえ、曲の方向性はクラシックなイエスですから、心地よいものです。

 一方のイエス組は「ロンリー・ハート」から「ビッグ・ジェネレイター」のベクトルで進化しており、本作でも「リフト・ミー・アップ」や「セイヴィング・マイ・ハート」のトップ10ヒットを生んでいます。こちらのチームのまとまりが勝っていたということです。

 ジャズだったら、ここまでややこしいことにはならなかったことでしょう。お互い楽器一つ下げてスタジオに集まり、えいやっとジャム・セッションを繰り広げて、終わり。やはりそうはならないところに構築美を追求するイエスの真骨頂があります。

 本作は、随所に新旧のイエスらしさが垣間見える、楽しい同窓会アルバムです。ジョンの歌詞は相変わらず訳が分からないですし、スティーヴの差し替えられていないギターも往時を思わせます。クリスの太いベース、トレバー・ラビンのポップ新機軸。いいんじゃないでしょうか。

Union / Yes (1991 Arista)