このジャケットはおっさんず・ラヴではなくて、どうやら双子の様子です。ジェミニ組曲、すなわち双子座組曲ですから。サイケデリックなラファエロ前派ともいえる飄々とした面白ジャケットだと思います。ジョン・ロードのセンスはよく分かりませんね。

 本作品は2019年になってようやく日本初CD化されたディープ・パープルのキーボーディスト、ジョン・ロードのソロ名義のオーケストラ共演作品です。発表されたのは1971年のことですから、ほぼ半世紀ぶりにCD化されたことになります。

 ディープ・パープルの歴史の中で、誰もが口を濁す作品にロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラとの共演作品がありました。ジョンが作曲した協奏曲をバンドとオーケストラで演奏するというもので、本作はその続編にあたります。

 ロイヤル・フィルとのライヴは実は好評だったそうで、BBCは第二弾をバンドに依頼します。喜んだジョンは機会を逃してはならじと半年でスコアを書き上げ、1970年9月にディープ・パープルとライト・ミュージック・ソサエティ・オーケストラによる初演が実現します。

 ラジオ放送されたこの音源は後に発掘されることになりますが、一旦お蔵入りします。もともとハード・ロック路線で成功の途上にあったバンドは「オーケストラとの『戯れ』はもうしないということに決まった」のに、あと一回だけ、と言われて実現したという事情からです。

 しかし、ジョンはあきらめきれず、自分のソロ・プロジェクトとして組曲を再演することとしました。それが本作品です。パープルからはベースのロジャー・グローヴァーとドラムのイアン・ペイスが参加しますが、リッチー・ブラックモアとイアン・ギランは参加しませんでした。

 代わりにギターには後にエリック・クラプトンとも共演するアルバート・リー、ボーカルには後にペイス・アシュトン・ロードを組むトニー・アシュトン及び自身のパープル・レコードのレーベル・メイトのイヴォンヌ・エリマンを起用しました。

 ロンドン・シンフォニー・オーケストラを指揮するのは、ロイヤル・フィルの時と同じくミュージシャンの尊敬を集めるマルコム・アーノルドです。マルコムはよほど柔軟な考えの持ち主だったと見受けられます。大そう楽しんでいる様子がうかがえます。

 本作はジョンの「星座である双子座(ジェミニ)生まれの人々の主な特徴をほのめかしている」と本人が解説しています。ご丁寧にジャケットには参加ソロイストはもちろんオーケストラ・メンバー全員の名前とともにその星座が記載されています。

 組曲は6曲からなります。それぞれにギター、ピアノ、ドラムス、ボーカル、ベース、オルガンとタイトルがつけられ、邦題ではそこに「対オーケストラ」と加えています。各楽器をフィーチャーしてオーケストラと対峙させる試みです。面白いものです。

 ピアノがジャズっぽかったり、ベースは我が道を行くし、オケではティンパニが妙に活躍するし、ロジャーが苦労話を書いているように強引な共演ぶりが面白いです。クラシックとロックの融合に果敢に挑戦するプログレッシブ精神の発露として暖かく受け止めましょう。

Gemini Suite / Jon Lord, London Symphony Orchestra (1971 Purple)