ヴァニティー・レコードから発表された豪華ボックス入り2枚組コンピレーション・アルバム「ミュージック」です。堂々たるタイトルがつけられたものです。後輩から現物を借りて聴いていたのですが、おまけも充実していて羨ましかったです。

 この頃のロック・マガジンのビジュアル面での充実ぶりを反映した豪華な箱ではありましたが、LPレコードに比べてサイズがやや小さかったので、後輩はぶつくさ文句を言っておりました。この箱仕様で復刻して欲しかったですが、欲を言いますまい。

 この作品は全国からロック・マガジンに送られてきた「数100本の匿名のデモ・カセット・テープから15曲を厳選してブリコラージュしたもの」です。ブリコラージュとはありわせの物を寄せ集めて新しいものを作り上げるという意味です。

 曲とアーティストの表記が乱れていますので、まず整理しておきますと、デイリー・エクスプレッションによる「インカ・サンカ」1と2は、西村有望による「表情のうた」と「絶唱」のことです。またアイソレーションによる「インヴィーヴォ」はインヴィーヴォの「BBB」です。

 黄色ラジカルの曲は5曲となっていますが、全体が15曲とすると5曲は1曲とカウントします。この三つのアーティストの音源は「ノイズ・ボックス」に収録されていたものと同じです。ただし、レコードに落とすときにノイズが減っているようで、こちらの方がすっきりしています。

 他のアーティストの中で多少なりとも名が知れているのは、ピナコテカから作品をリリースしていたアノード/カソード、サイケデリック・ロック・バンド、ハイ・ライズのギタリスト成田宗弘によるトウキョウ、BCレモンズとなるプラズマ・ミュージックです。

 さらにプロデューサーの阿木譲本人がニューヨークでフィールド録音してきた「ニュー・ヨーク」、ロック・マガジンの表紙やシンパシー・ナーヴァスのジャケを手がけたアヒム・デュホウによるアルバイトの作品があります。それ以外は全く詳細不明の匿名アーティストです。

 再発にあたり、阿木さんが文章を寄せています。それによれば、本作品はデュシャンの「アネミック・シネマ」及びハンス・リヒターの「リズム21」「リズム23」という前衛映画のBGMとして機能できるようにブリコラージュしたとのことです。

 「アネミック・シネマ」に出てくるデュシャンの回転盤は同じリヒターの「金で買える夢」にも出てきていて、そちらはジョン・ケージが音楽をつけています。今回、映像を眺めながら聴いたのですが、ケージの印象が強烈すぎて、どうにも居心地が悪かったです。

 本作収録の楽曲群はDIYの極致で、さまざまな実験が繰り広げられています。グループ・サウンズ・ミーツ・テクノ・ポップなプラズマ・ミュージックから、西村の暗黒リズム、黄色ラジカルのエレクトロニクス、呪術的なアノード/カソードなどなど、多彩な音が並んでいます。

 これだけ集まると圧巻です。匿名性の高いサウンドですから、まさに時代の落とし子と言えます。エレクトロニクスにしても、コンピュータ以前のもので、基本は人力を駆使した実験的なサウンドです。少なくともサウンド面では解放感に溢れた時代でした。

Music / Various Artists (1980 Vanity)