「ノイズ・ボックス」はヴァニティ・レコードから発表されたカセット・テープ6本組の作品です。長い間待望されていましたが、ついにきょうレコーズからCDで再発された上に、エディション・ノールからカセットテープ6本組としても発売されるとのこと、まずは喜ばしいです。

 オリジナルは70セット限定のはずが30セット程度しか作られていないそうです。そのうちの一つが我が家にあるというのは誇らしいことです。ただし、ボックスはどこかに行ってしまいましたし、元々の製造不良で一部テープがブランクになっているなど残念な部分もあります。

 ボックスのコンセプトはロック・マガジンに全国から送られてきたカセット・テープから選りすぐったものをそのまま収めるというものでした。プロデューサーは阿木編集長となっていますけれども、テープの選出が彼の最重要の仕事だったということです。

 黄色ラジカルは阿木編集長のお気に入りで、「このテープは、おそらく今の時点では日本のエレクトロニクス・ミュージックの頂点にある作品だと僕は思う。」とまで言い切っています。二枚組編集盤「ミュージック」にも5曲も入っていることがその証左です。

 黄色ラジカルは鳥取県米子市に住む持田雅章のプロジェクトです。CD再発にあたって、きょうレコーズは各アーティストの行方を捜していましたが、持田の消息はようとして知れなかった模様です。この作品と「ミュージック」だけが彼の音楽の記録です。

 「デンキ・ノイズ・ダンス」は、一言で言うと、極めて良質な電子音楽作品です。宅録だと思われますが、当時のまだ性能のよろしくないシンセをメインにした、音数の少ないストイックな作品です。シンセの他にも何か叩いたり、吹いたり、弾いたりしています。

 当時のアナログでの宅録には限界があり、音を重ねれば重ねるほどヒス・ノイズが募っていくため、重層とはいえ基本的にはシンプルな構成で曲ができています。その中にはリズムがくっきりと際立っている曲もあれば、そこはかとないメロディーが聴こえてくる曲もあります。

 往々にして、こういう作風だと、独りよがりになりがちですが、見事なまでに引き締まっているところが清々しいです。場の空気を透明にして、脳髄の細胞がピーンと弾かれるようなサウンドです。夜遅くに静かに聴いていたいと思わせる作品です。

 阿木も「夜遅く、部屋に帰ってこのテープを聴いて大変ショックを受けた。指でつかもうとするとすぎに消えてなくなる音楽であるクォークを、こんなにもオングストロームの世界で構成したデリケートな音楽をかって聴いたことがなかったからだ(原文まま)」と書いています。

 サウンド的には、エイフェックス・ツインの初期作品のようでもありますし、クラウト・ロックで言えばコンラッド・シュニッツラーの風情も少しあります。しかし、エレクトロニクスな中にどことなく和風な匂いがするところが私にとってはツボです。

 音楽活動を辞めてしまったのは返す返すも残念です。黄色ラジカルは早すぎた宅録職人でした。その後の10年で機材は光速の進歩を遂げますから、ヒスノイズ込みで繊細な世界を構築していた黄色ラジカルがどう発展していったか見てみたかった。

Denki Noise Dance / Kiilo Radical (1981 Vanity)