ヴァニティ・レコードからの第8弾はBGMの「バックグラウンド・ミュージック」です。皮肉っぽいユニット名でありタイトルですけれども、これは現在も活躍中の「国産エレクトロニック・ミュージックの生き神」白石隆之が高校生の時に制作した作品です。

 私が持っているのはきょうレコーズの「ヴァニティ・ボックス」の一部ですが、ほぼ同時期にオリジナル・テープからリマスタリングされたLPが再発されています。ボックスの入手が途轍もなく困難だっただけに、誰でも買えるようになるのは大変結構な話です。

 本作品は、まだ高校生だった白石が「他の3人のメンツを連れて東京から大阪へ新幹線で行き、本格的なレコーディング・スタジオに初めて入って1日で録音/ミックスを仕上げるという強行スケジュール。」で制作しました。

 楽器の担当は白石がギター、ヴォイス、シンセ、川島晴信がベース、ハシモトシュウイチがシンセ、エビサワケンイチがドラムとなっています。エレクトロニック・ミュージックというよりも、基本的にはドラムとベースによるリズムを中心としたニュー・ウェイブ・サウンドです。

 本作品で大活躍しているベースの川島晴信は1984年には未だに現役で活躍するバンド、デル・ジベットに参加することになります。他の二人の行方は存じ上げないのですが、二人も40年にわたって活躍するミュージシャンを輩出したのは凄いことです。

 白石は公式サイトにて本作について「タイトなスケジュールの中で先走る自分の頭の中のイメージを上手く具現化出来なかったという悔いが強く残っています」と当時を振り返っています。高校生の初めてのスタジオ・レコーディングですから無理からぬことです。

 今ならばベッドルームで出来てしまうことでも、当時はプロと称する大人たちとの作業です。ましてや「クセのある阿木さん」ですから、その「プレッシャーを上手くかわせなかった」としても仕方ありません。この経験もその後の活動の肥やしになった模様ですし。

 白石はこの当時、PILの「メタルボックス」を「自分の当時の指標であり、本当に繰り返し聴いた」と書いています。何でも、入荷しそうだという情報をキャッチして、毎日輸入盤店を覗きに行き、「入荷日にメタル缶買って帰る時の気持ちは特別なものがあった」そうです。

 この話を聞くと、BGMのサウンドがストンと腑に落ちます。「ダブ・ベースとディスコビートの上を飛び交うプロフェット5のひしゃげたノイズ」という表現はそのままではないにせよ、かなりBGMサウンドを説明しています。かなりかっこいい作品です。

 当時のロック・マガジンは工業神秘主義音楽だとか家具の音楽だとかを特集していたため、BGMのサウンドもその系統で紹介されたものですが、根が明るい高校生のモダンなダンス・ミュージックにそんな言葉は似合いません。うきうきさせる楽しいサウンドです。

 白石はこの後、デトロイト・テクノと出会い、生き神さまになっていくわけですが、この作品などはプロト・テクノとも言うべきサウンドですから、まさにその道行は大納得です。何とまっすぐに歩み続けているひとなのでしょう。見事な出発点だと思います。

参照:Takayuki Shiraishi official website 2019.10.01/10.29

Back Ground Music / BGM (1980 Vanity)