シンパシー・ナーヴァスこと新沼好文は1955年に生まれたクラシック音楽と電子工作が好きな少年でした。やがて、新沼はジャーマン・エクスペリメンタル・ロックと出会い、音楽活動を始めます。そうして25歳の時にヴァニティ・レコードからシングル・デビューを飾ります。

 この作品は同じヴァニティから発表された初めてのアルバムです。ヴァニティから2作品を発表するのはシンパシー・ナーヴァスとトレーランスだけですから、この当時、レーベルというか阿木譲氏の期待がいかに高かったかが分かります。

 シンパシー・ナーヴァスという名前は交感神経、すなわちシンパセティック・ナーヴスからとった名前です。全身に張り巡らされた交感神経系は新沼が使用しているUCG、ユニヴァーサル・キャラクター・ジェネレーターを思わせますからなかなか考えた名前です。

 UCGはセッティングに5時間くらいかかるという大変な自作のコンピュータ・システムです。彼の説明によれば、セッティングに時間がかかるのは「全部シンセサイザーのモデュールが離れてて、各部分をUCGでコントロールする」からなんだそうです。

 この頃のシンセです。各モデュールには4、5本のワイヤーが必要で、それを一本ずつ繋いでいくという機械感があふれ出るシステムです。こんなところに電子工作好きの本領が発揮されており、新沼は後にテルミン工房を設立するすることになります。

 私はこの当時東京で開催されたロック・マガジンからみのイベントで、UCGが音を出しているところを目撃しました。巨大でメカニカルな装置が肉体的なサウンドを響かせていた光景は鮮明に脳裏に刻まれています。何のイベントか忘れてしまったんですが。

 フロアにいたのはUCGだけで、新沼の姿はありません。彼は肉体でコントロールする部分を極力少なくして全部機械に任せていくことを目指していました。そうすると肉体を切り離す方向に行くのか、逆に身体が機械の中に入って同化するのか。

 ここでは新沼の他に千崎達也なる人物が参加しており、ギターと声でノイズを出しているとのことです。恐らくはUCGでコントロールするモジュールの一つなのでしょう。アコースティックという意味での人間の感触はまるでありません。自律した機械の音楽ですから。

 新沼の作品を出している米国のミニマル・ウェイヴ・レコードのサイトに新沼の写真が掲載されています。一目見たときにドイツのエクスペリメンタルの天才コンラッド・シュニッツラーを思い出しました。そうです。サウンドの系統も二人はとても良く似ています。

 コンピューターがまだコンピューター然としていた時代に、エレクトロニクスとフィジカルに格闘した音楽です。AIよりもAIらしい、機械が人格をもったようなサウンドに心が震えます。ビートによる呪術性などを排した機械による機械のための音楽が清々しいです。

 その後、新沼は90年代に入るとテクノに傾倒した音楽活動を積極的に続けていきます。そして2000年にはテルミン作りを岩手で始めます。しかし、東日本大震災で被災、ミニマル・ウェイヴなどが支援の手を差し伸べますが、惜しくも2014年には逝去されています。合掌。

参照 : Minimal Wave

Sympathy Nervous / Sympathy Nervous (1980 Vanity)

ねこぱんさんにご指摘頂き、シンパシー・ナーヴス→シンパシー・ナーヴァスに訂正しました。ねこぱんさん、ありがとうございました。(2019/12/6)