日本のインディーズの草分けとも言えるヴァニティ・レコードが発表した音源は、複雑な事情を抱えた「アーント・サリー」の他は、長い間再発されず、幻のレコードとなっていました。しかし、ここへ来て、あちらこちらから正式に再発されるようになってきたのは嬉しいことです。

 この作品はヴァニティ・レコードの第一弾として1978年に発表されたダダのデビュー・アルバムです。きょうレコードから再発されたボックス・セットにももちろん入っていますが、これは細心のリマスターを行ったベル・アンティーク版です。

 リマスター作業にあたった宇都宮泰氏によれば、「録音時のテープ速度の半分の速度で再生し、デジタルに変換。デジタルへ変換後にデジタル域で倍速に定義し直す」、さらに「相関フィルター処理の技法」でノイズを消すのではなく適量差し引く手法がとられました。

 もともと録音状態が良くなかったそうですが、こうしてリマスターされた音を聴いていると、細部まで極めてクリアで、とても1978年の録音とは思えないサウンドになっています。関係者の愛が詰まった実に丁寧な仕事ぶりです。

 さて、ダダは泉陸奥彦と小西健司によるユニットで、泉はギターとシンセサイザー、小西はピアノとシンセサイザーを担当しています。1980年にネクサス・レーベルからセルフ・タイトルのアルバムを発表していますが、本作とは随分音の表情が異なります。

 ネクサスの方は、イタリア系プログレともいうべき壮大なサウンドを展開していますけれども、本作では、「二人とも極力弾きすぎないようにと、音と音の間(ま)を大切にして演奏したのを覚えている」と泉が語る通り、すき間の多いサウンドが繰り広げられています。

 ジャケットは平安時代から鎌倉時代にかけて描かれた「餓鬼草紙」からとられています。本作品はその「餓鬼草紙」から着想を得て構築されており、各楽曲のタイトルも「遊宴。妊楽。餓鬼」、「鬱雲鉢」、「六神通」、「清浄の地。水」とまさに餓鬼草紙の世界です。

 アルバムには「イーノに捧ぐ」とも記されています。この当時のブライアン・イーノはアンビエントに軸足を移した頃で、プロデューサーの阿木譲が雑誌「ロック・マガジン」で絶賛していた頃です。ダダのこうしたサウンドは阿木の要望でもあったようです。

 「あの頃の僕らは、ギターやピアノはもちろん、まだ使いこなすことも到底ままならないシンセサイザー等を手にして、それこそ様々な表現を模索していた」と泉は言い、「いや~、楽しかったなぁ。懐かしいなぁ」と懐古しています。

 シンセによる打楽器音だけでサウンドを作るなどシンセは大活躍ですが、ジョン・マクラフリンに影響されたギターが艶めかしく響いたり、ピアノとギターが絡んだりとけしてシンセだけではありません。そこがダダのサウンドを特徴づけています。

 ポポル・ヴーあたりのジャーマン・プログレ的な静かな広がりを見せるサウンドですが、あえてとられた「間」から、弾きたくて弾きたくてしょうがない若いエネルギーが漏れてくるのも面白いです。若い二人のハイ・エナジーを感じる静寂の音楽です。

Jyo / DADA (1978 Vanity)