D-DAYは「80年代ジャパニーズ・インディーズ・シーンで、唯一無比の輝きを放った伝説のバンド」です。この作品は、彼女たちの「全公式スタジオ音源と未発表音源を網羅した」「コンプリート・アンソロジー・アルバム」です。さすがに2枚組です。

 網羅されているのは1983年のEP「Ki・Ra・I」、翌年のEP「ヴェール・オブ・プロミス」、87年のソノシート「シトロン」、同年の斉藤美和子とのスプリット・シングル「ウィンター・ウィンク」、1986年のアルバム「グレイプ・アイリス」、90年のアルバム「オール・リーヴス」。

 それに各種オムニバス・アルバム所収の音源が少々。「オール・リーヴス」はアンソロジー的ですし、「グレイプ・アイリス」も半分はEPからの音源ですから、こうして無駄なく網羅してくれるとダブりがなくて大変結構です。丁寧な仕事です。

 D-DAYはボーカルとソング・ライティングを担う川喜多美子を中心とするバンドです。彼女はアイドル的なルックスでしたが、インディーズ界隈にあってもそれを隠そうともしません。白いドレスで可愛いポップな歌を歌ったりします。

 あぶらだこやガスタンクなどと同じステージに立ち、「女性パンクスにやじられて立ち往生」しても貫き通す姿が眩しいです。偏見のないものの見方というのはこういうところで試されます。確かに、どんな服装でどんな曲を歌ったって良いではないですか。

 D-DAYは「意気込みというか、気合は全然なかったね」という実に都会的なバンドです。「コンセプトありきじゃないからこそ、なんとなくD-DAYっぽいものみたいなのが枠組みとしてあったのかな」という田舎者には眩しすぎることを言っています。

 「やりたいことがあったのかもしれないけど、その体現能力はほぼなくて、できることをやった」とベースの桜井マリオ。川喜多も「私は自分自身を脚色したり、大きく見せるのは苦手だった」ので、バンドは自然体で「好きなことをちょっとだけ背伸びしてやる世界」でした。

 デビューEPは山海塾の吉川洋一郎が音作りをしていて、かなり実験的な作風です。その後、秀島恭子以外のメンバーは交代します。川喜多自身が追っかけみたいなもんだったゼルダから野沢久仁子が加入し、ベースに桜井マリオ、キーボードに大桃修一が加入しました。

 その後は、ちゃくらの板倉文のプロデュースでアルバムを発表するなどして、どんどんポップなテイストに移行していきます。その結果、川喜多の可愛らしいボーカルとポップながらも凝ったアレンジの楽曲というD-DAYの魅力が確立していきました。

 「Ki・Ra・I」は実験的なサウンドですが、川喜多の語りは前時代的な女性像だったりします。むしろ、後半のポップな曲の方が新しい女性像を感じさせてくれます。何ということのないロマンティックな曲でもまるで男に媚びていないところが素敵です。

 英国ニュー・ウェイブ耽美派サウンドを日本的に展開したような自然体が素晴らしいです。余計な気負いがない都会的なサウンドは当時のインディーズ界にあっては異端でした。どう消化していいものやら、当時の若かった私は悩んだものです。

Crossed Fingers / D-Day (2006 Caraway)