「エイジ・オブ・コンセント」とは同意年齢、ここでは性交同意年齢、しかも同性間の性交同意年齢のことです。80年代のキリスト教ヨーロッパ諸国では法律によって同性間の性行為を禁止したり、そうでなくとも同意年齢を異性間のそれよりも厳しくする国がほとんどでした。

 当時、この言葉を「調和の時代」と訳して論を展開しているレビューが日本にはありました。日本には同性愛への差別はありますが、罪ととらえる文化はないので、法律で規制するという考えに馴染みがありません。とはいえ、あんまりな誤訳です。

 ブロンスキ・ビートは1983年にジミー・ソマーヴィル、ラリー・スタインバチェック、スティーヴ・ブロンスキの三人が結成したシンセ・ポップ・トリオです。最大の魅力は「イギリスで最も魅力的なファルセット」と言われたジミーの美しいボーカルです。

 ジミーのボーカルと組み合わさる、ラリーとスティーヴによるディスコ・ビートは彼らが愛してやまないジョルジョ・モロダーのミュンヘン・サウンドに多くを負っています。この見事な組み合わせによって、彼らはヨーロッパのチャートを席巻しました。

 彼ら三人はゲイを広言していました。この当時、エイズの到来とともに同性愛者への差別は激しさを増していました。それに対して、同性愛者の権利を主張する社会運動は盛り上がりをみせます。ブロンスキ・ビートの音楽はそうした背景と切っても切り離せません。

 ブロンスキ・ビートはロンドンのゲイ・コミュニティーで有名になると、ティナ・ターナーのサポートを任され、やがてロンドン・レコードとの契約を獲得しました。最初のシングルは小さな街から逃げ出す少年を描いて圧倒的共感を得た「スモールタウン・ボーイ」です。

 次いで、♪あなたの蔑みを受け止めながら彼にキスをする♪というアンチ・ゲイへのアンチ・ソング「ホワイ?」、続いて意表をついたガーシュインのカバー「イット・エイント・ネセサリリー・ソー」、本家モロダーのカバー「アイ・フィール・ラヴ」と続々とヒットを飛ばしました。

 本作品はブロンスキ・ビートのデビュー・アルバムにして、オリジナル・ラインナップの最後のアルバムです。発表したシングルはすべて収録されており、名曲てんこ盛りの名作です。英国では4位どまりですが、その社会的な影響は大きかったです。

 ゲイ・アンセムと言えば、パンク時代にはトム・ロビンソンの「グラッド・トゥ・ビー・ゲイ」がありましたが、ブロンスキのそれはより誠実かつ真摯です。「私は恐れることなく、差別を巡る日常の戦いに衝き動かされていた」ジミーはポップ・スターになることなど考えていませんでした。

 「トラブルメーカーとなり、異議を申し立てる究極の場所を与えられたんだ」と語るジミー。LGBTを巡る情勢は良い方に変わりつつある今の世の中は彼らのような人々の努力がもたらしたものです。それを究極のポップ・ソングでもって実現するのだから凄いです。

 「スモールタウン・ボーイ」と「ホワイ?」はとにかく名曲中の名曲です。シンセによるキャッチーなサウンドに、どこまでも美しいジミーのファルセットが、人生の真実を痛みをもって表現していきます。この時代の最高傑作の一つであろうと思います。

The Age Of Consent / Bronski Beat (1984 London)