涙なくして聴けないアルバムです。アルバムにはお涙頂戴要素は一切ありませんけれども、アルバムの主人公アリーヤがアルバム発表のわずか1か月後に飛行機事故で亡くなってしまったという圧倒的事実の前には胸が塞がります。

 享年わずかに22歳。早逝のロック・ミュージシャンは多いですけれども、ジャニス・ジョプリンにしてもジミ・ヘンドリクスにしても20代後半です。22歳はいくらなんでも若すぎます。ようやく本作で完成したばかりのアリーヤ、洋々たる未来が待っていたはずなのに。

 アリーヤのデビューはわずか15歳の時です。まあいろいろと話題に事欠かない人ですけれども、3枚目となる本作の前に発表された2枚もそれぞれヒットしており、客演もどしどしこなして、若いにもかかわらず、大活躍していました。

 2000年には映画「ロミオ・マスト・ダイ」にヒロインとしてスクリーン・デビューしており、主題歌の「トライ・アゲイン」が全米1位を獲得しました。本作はその1年ちょっと後に発表された3枚目のアルバムです。セルフ・タイトルですから当然自信作です。

 「トライ・アゲイン」は衝撃的でした。プロデューサーはティンバランドです。今では知らない人もいない大物ですけれども、彼が頭角を現したのはアリーヤのプロデュースがきっかけであったことは忘れてはいけません。特にこの曲。ティンバランドにとっても出世作です。

 当時、「トライ・アゲイン」はR&Bに革新をもたらしたと言われていました。私もその記事を読んでこのアルバムを買ったんです。よじれたようなスカスカのサウンドに驚いたことはよく覚えています。しばらくの間、耳から離れませんでした。

 私が入手した本アルバムはインターナショナル盤なので「トライ・アゲイン」が収録されています。それで買ったのですが、その時にはすでにアリーヤは亡くなっていました。この作品を知ったことで、彼女の訃報のもたらした喪失感の大きさを思い知らされることになりました。

 本作はティンバランドの他にはブラックグラウンド・レーベルのインハウス・プロデューサーを使って制作されています。アリーヤはR&Bの境界を押し広げることをはっきりと意図しており、制作陣もそれにこたえて、斬新なサウンドを展開していきました。

 エレクトロニック・サウンドによるむき出しのリズムを中心とする骨格だけのサウンドにのせて、アリーヤがあくまで美しいソプラノ・ボイスで歌います。こぶしを利かせたり、歌い上げたりすることのない比較的素直なボーカルとサウンドのマッチングが素晴らしい。

 一見、ウィスパーのようで線が細そうに見えますが、けっして折れないしなやかで力強いボーカルです。このサウンドで歌うのは想像以上に難しいことは、ティンバランドに挑戦した日本の歌手が証明してくれます。アリーヤは本当に凄かった。

 アルバムからはシングル・カットされた「ウィ・ニード・ア・レゾリューション」や「ロック・ザ・ボート」などが人気が高いです。この時期のR&Bの最前線はまさにここにあったはずです。まだまだこれから何十年も活躍するはずだったのに、返す返すも残念です。

Aaliyah / Aaliyah (2001 Blackground)

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