ユーチューブによって掘り起こされた埋蔵レコードです。1982年にインドのメガフォン社から発売されたルパ・ビスワスの「ディスコ・ジャズ」が考古学者によって掘り出され、ユーチューブに発表されたことで人気を呼び、100万再生をはるかに超えるヒットとなりました。

 2019年2月にルパの家に親せきが集まった際、このアルバムが話題になると、彼女の息子さんがネットでその事実を発見したそうです。一同大いに盛り上がったことでしょう。その結果、こうして米国のニュメロ社からCDとして再発されることになりました。

 とはいえ全くの偶然とはいえません。1982年に発売されて以来、ほんの少ししか売れなかったとはいえ、2012年にはインド映画に使われたそうですし、2017年には無許可でドイツで再発されてもいます。脈々と根強いファンがいたことが分かります。

 聴けば分かります。これは魔法のような音楽です。聴き終わったら、どんな人であっても、ついつい♪モジャ、バリ・モジャ♪とか♪アアジ・シャニバル♪などと口ずさまないではいられません。私の頭の中でもぐるんぐるんと回っています。

 ルパ・ビスワスは北ベンガルの出身で、子どもの頃から歌が上手いことが近所で有名だったそうです。その後、カルカッタ大学で生物学を勉強する傍ら、お茶の間の王様であったオール・インディア・ラジオにて歌を歌うなどしていました。

 そんな彼女が一家でカナダにいる兄弟を訪ねたことからこのレコードが誕生します。ルパが兄弟の友だちの前で歌を歌ったところ、感銘を受けた彼らの勧めでカルガリー大学のホールで歌を披露することになりました。その聴衆にアアシシュとプラネシュの両カーンがいました。

 両カーンはルパに会いに行き、その滞在中に彼女のボーカルを録音してしまいます。アアシシュとプラネシュは、メンバーを集めてルパのボーカルに演奏をつけて4曲のトラックを完成させます。ちなみに両カーン以外のメンバーは白人ばかりです。

 アアシシュは出来上がったテープを手に意気揚々とインドに向かいますが、レコード会社からは色よい返事が得られません。ようやく近所の住んでいた誼でメガフォン社の社長と話しをつけることができ、発表されたのがこのアルバムです。

 そんな経緯からか、ほとんどプロモーションもされず、売り上げはさっぱりでルパは全く印税を受け取っていないそうです。「これ以降は歌ってアルバムを作るエネルギーがなくなった」ルパは幾分かは音楽活動をするものの、基本的には家庭人となっています。

 このアルバムのサウンドは、アアシシュのサロード、プラネシュのタブラの他は、ギター、ベース、ドラムにシンセという標準ロック仕様によるものです。繰り返される魔術的なリズムとヘロヘロ・ギターが耳に残る、プロっぽくない異形のサウンドが癖になります。

 ルパのボーカルはしゅっとしており、演奏も含めてどこまでも熱くない。ディスコともジャズとも言い難いインド風味のサウンドはいつの時代のものとも思えないモンドな空気に満ちています。こんなサウンド、愛するしかないじゃないですか。

Disco Jazz / Rupa (1982 Megaphone)