作品を巡るすべての余計な情報を一旦忘れて、虚心坦懐にサウンドに耳を傾けることができたとしたら、このアルバムはハード・ロックの傑作であると素直に言えたことでしょう。ハード・ロックのクラシックとして殿堂入りに値する作品だと思います。

 しかし、なかなかそうは問屋が卸しません。何といっても、この作品はスーパースター、ガンズ・アンド・ローゼズがオリジナル・スタジオ作品としては実に17年ぶりに発表したアルバムですから。前作発表時に生まれた子どもはすでに高校生です。

 全曲カバーの「スパゲッティ・インシデント」からですら15年ものギャップがあるにもかかわらず、その間、ずっとこのバンドは世間を騒がせ続けていました。要するにずっと現役感をキープしていました。ですから、本作品の発表は大きな事件でした。

 そもそもガンズ・アンド・ローゼズと名乗ってはいますが、オリジナル・メンバーはボーカルのアクセル・ローズのみ。百歩譲ってディジー・リードをオリジナル扱いするとしても、スラッシュもイジー・ストラドリンもベースのダフもいません。

 アクセルのソロ作品として発表する手もあったと思うのですが、あえて大名跡を名乗るところがいいです。そもそも1994年には制作に着手していたそうですから、そこで発表していれば普通にガンズのアルバムです。しかし、そこから14年、14億円。大したものです。

 それだけ長期にわたるともはやメンバーが誰かと特定することすら難しい。参加しているギタリストだけでも、ナイン・インチ・ネイルのロビン・フィンク、バケツを被ったバケットヘッドを含めて5人もいます。時々には正式メンバーが特定できたのでしょうが、もはや意味がない。

 当然、過去のガンズのアルバムと比較されるわけですけれども、15年も隔たってしまっているにもかかわらず、意外と同じ土俵であれこれ言い募っても違和感がありません。もともとガンズのサウンドは同時代的ではなかったからです。

 このアルバムはアクセル・ローズの大作主義がより一層鮮明に表れていて、堂々たる大曲ばかりとなっています。ガンズの初期の作品と並べても時の隔たりをあまり感じませんし、発表から10年を経過すると、もはやいつの時代の作品なのかまるで分かりません。

 もちろんブライアン・マンティアやバケットヘッドなどの新メンバーの感覚は十分同時代だとは思いますけれども、アクセル・ローズはまるでフランク・シナトラのようにアルバムを取り仕切っています。ハード・ロック界のスタンダード歌手です。

 「キャッチャー・イン・ザ・ライ」や「マダガスカル」、「ディス・アイ・ラヴ」など見事なまでのスタンダードぶり。しみじみといい曲ですし、包み込む大きなアレンジを、アクセルのボーカルが切り込んでいくさまはまさにハード・ロックのスタンダードです。

 中国に喧嘩を売っているコンセプトもにやりとさせられます。どこをどう切りとっても、よく出来たアルバムです。しかし、さすがに17年は長く、爆発力には欠けました。発表当時からすでにスタンダードとして旧譜に属する作品として扱われてしまったような気がします。

Chinese Democracy / Guns N' Roses (2008 Geffen)