パソコン音楽クラブは、「気軽に楽しく音楽をつくろうという部活です」。公式HPは部活の体で制作されています。部員は柴田と西山を中心としています。この苗字だけというのがいいです。まさに部活。パソコン音楽クラブの柴田と西山。剣道部の○○ってな感じです。

 クラブのテーマは「DTMの新時代が到来する!」です。彼らが使用する機材はローランドやヤマハなどの1980年代から1990年代の音源モジュール/シンセサイザーばかりです。柴田も西山も1990年代の生まれですから、産湯につかりながら聴いていた音なんでしょう。

 ギターやピアノなどの楽器と異なり、シンセサイザーなどの電子楽器は時とともにどんどん進歩しています。この場合、上位互換だと観念されるので、一般に古い電子楽器は顧みられることが少ないです。要するに新機種で代替可能だと。

 しかし、理論上は完全に代替可能であっても、やはりそうは問屋が卸さない。理論上は私だってミック・ジャガーのように歌えるはず。やはりその時々の電子楽器にしか出せない音があります。彼らにも他には変えられない個性というものがあります。

 彼らは、「当時の機材の多くは特定の楽器や役割を明示されていないプリセット音色が多く搭載されているように感じており、それが創作意欲を掻き立てます」と言っています。ことさらレトロにしようとしているわけではなく、単純に当時の楽器の音が好きなんでしょう。

 本作品はパソコン音楽クラブの2枚目のアルバムです。テーマは「夜から朝の時間の流れと、それに伴う心の動き」です。センチメンタルになる「夜のお散歩のお供などに是非宜しくお願いいたします」と、部活の発表らしくさわやかにご挨拶されてしまいました。

 「パソコン音楽と名乗りながらも、とても人間らしい題材ですね」と本人たちが言う通り、テクノだとかEDMという言葉よりも、フォークないしニューミュージックという言葉が似合います。パソコンがない時代であれば、恐らくギターを弾きながら歌っていたことでしょう。

 アルバムには3人のボーカリストがゲストで参加しています。一人目は「スシローの海老アボカド」が好きだという大阪在住の宅録音楽家unmo。熊本城やトヨタプリウスのTVCMなどを担当している女性です。そしてイラストレーターとしても活躍するイノウエワラビ。

 もう一人はネット上で活躍する弱冠20歳くらいの音楽家/シンガーソングライターの長谷川白紙です。部活らしく、近くの高校から参加してもらった、というノリが感じられて大変結構だと思います。テクノ成分の低いボーカルが電子楽器が繰り出すサウンドに似合います。

 部活だけに青春です。「自分たちにとって<夜>は、見知ったはずの物さえ違って見え、いろいろなものにときめきを感じる魔法のような時間です」が、こういう感覚は年齢を重ねると消えてしまうのではないかと思い、消える前に「この感覚を覚えておけるようにしたい」のだと。

 繊細な思春期感覚を、年代を経ることで深みをましたかのような電子楽器によるサウンドに包んで、静かな夜を描き出す。若者たちの部活動にはやはり無限の可能性があります。本当に高校生の部活で作った音楽のように聴こえます。青春ですね。

参照:「BOUNCE430」北野創 (タワーレコード)

Night Flow / Pasocom Music Club (2019 Pasocom Music Club)