ジョーのなんちゃらシリーズも第五弾になりました。今回のタイトルは「ジョーのカモフラージュ」、音源発掘人、ヴォールト・マイスターのジョー・トラヴァースによれば、「これはバンドに扮したグループだ」ということです。分かったような分からないような説明です。

 しかし、このグループはリハーサルのみで結局ツアーにも出ていないのにバンドとしてのフォト・セッションをやっていたという事情を聴けば、ジョーの言わんとしていることも理解できる気がしてきます。幻のバンドとなったグループ。

 時期はスタジオ作で言えば「万物同サイズの法則」と「ボンゴ・フューリー」の間、ライヴで言えばキャプテン・ビーフハートとのライヴと「オーケストラル・フェイヴァリット」に収録される電気オーケストラのツアーの間、1975年夏のことです。

 布陣はザッパ先生に加えて、ギターにデニー・ウォーリーとロバート・カマレナの二人、ヴィオラとキーボードに紅一点ノヴィ・ノヴォグ、後はお馴染みのナポレオン・マーフィー・ブロック、ロイ・エストラーダにテリー・ボジオで計7名です。

 本作品はこのバンドによる1975年8月25日のリハーサルを収録した4トラックのテープと、デニー・ウォーリーがカセット・テープに録音していた9月初めのリハーサルの模様を編集したアルバムです。今のところ、この布陣での唯一の音源です。

 激レア・キャラは言うまでもなく、ヴィオラのノヴィ・ノヴォグです。彼女は結局この時期だけの在籍で、他のザッパ先生のアルバムに参加したことはありません。先生は彼女を気に入っていたようですが、結局、自分のバンドを抜けることができなかった模様です。

 このアルバムの最大の聴きどころは名曲「ブラック・ナプキン」で、ザッパ先生のソロはもちろん素晴らしいのですが、それに加えて、ノヴォグによるヴィオラ・ソロが堪能できます。キーボードの音が妙なのが気になるものの、なかなかの「ブラック・ナプキン」です。

 もう一人のレア・キャラはロバート・カマレナで、彼は1974年にゲスト・ボーカルとして参加している他、実物版ルーベン・アンド・ザ・ジェッツにも参加しました。ザッパ・バンドでのギターはこれが初めてとなりますが、残念ながらさほど目立ってはいません。

 リハーサルにはザッパ先生の子どもムーンとドゥイーゼルの声が入っています。当時まだ7歳と5歳なのに、♪自分のことを誰だと思ってんの♪と生意気で可愛いです。そんな会話が録音されているところも本作の鑑賞ポイントです。

 「イリノイの浣腸強盗」とか「エニー・ダウナーズ」など、将来アルバムで発表される曲の原形が聴けますし、ナポレオン・タイムとでも言うべき過去曲の再現があったり、本作だけの現代音楽的なギター曲「フィニオックス」もあって充実しています。

 カセット録音の質が悪いのが玉に瑕ですけれども、リハーサル音源の音質はまずまずですし、リラックス気味の演奏はとても貴重です。このバンドによるライヴが行われなかったのは大変残念に思います。ステージでギターとヴィオラの対決を見てみたかったです。

Joe's Camouflage / Frank Zappa (2014 Vaulternative)