YMOによる最後のコンサート・ツアーは招待公演も含めて9回の公演が行われました。本作品はそのうち、1983年12月12、13日の日本武道館における公演の模様を収めたライヴ・アルバムです。泣く泣く何曲かカットして、なんとか2枚組に収めての発売です。

 なお、この公演の模様はNHKが収録しており、何度か放送されています。ただし、そちらは同じ日本武道館でも、12月22日に行われた招待客ばかりの公演で、収録のために行われました。招待された人はなんと幸運なことでしょう。

 ツアーにはドラマーとして「ルック・オブ・ラヴ」でお馴染みABCのドラマーだったデヴィッド・パーマーが参加しています。ゲストはパーマー一人だけです。YMOは当時としては画期的なプリ・プロダクションを充実させる手法で、最少人数でのライヴを可能にしています。

 すでに散開を表明していたYMOの最後のツアーということで、ファンへのサーヴィスの意味合いが濃いです。アルバム・タイトルも「サーヴィス」の後なので「アフター・サーヴィス」、会場もなるべく大勢が入るように全会場がアリーナ・クラスとなっています。

 曲目も、「BGM」と「テクノデリック」からの曲ばかりを演奏した1981年ツアーとは異なり、YMOの全キャリアを網羅して、代表曲として人気の高い曲をもれなく演奏しています。至れり尽くせりのファン・サーヴィスぶりは潔いです。

 パーマーは高橋幸宏のソロ・ツアーに参加した縁での参加です。彼はツアーのリハーサルにあたり、三人からただ一言、「まずはYMOの音を聴き、歌を聴き、そして聴く人が気持ちよくなれるようなドラムを叩いてくれ」と言われただけなのだそうです。

 この言葉は「アフター・サーヴィス」のサウンドを物語っていると思います。新たなアレンジを施すというよりも、お客さんに優しくストレートに演奏されています。そっち方面の驚きはなく、むしろライヴ・アルバムなのに何というクオリティーだという驚きが残るのみです。

 選曲はファースト・アルバムから3曲、「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」から4曲、「BGM」と「テクノデリック」から1曲ずつ、「浮気なぼくら」から6曲、「サーヴィス」から2曲、シングル曲「過激な淑女」に新曲「プロパガンダ」で全19曲です。

 「サーヴィス」からは他にも5曲演奏されていますが、アルバムではカットされました。それを考えると最後の2枚からの選曲が多いのですが、やはり今となっては目立つのは最初の2枚からの曲です。アンコールはマーティン・デニーの「ファイヤークラッカー」ですし。

 YMOのサウンドはとにかくドラムが目立ちます。テクノの草分けではありますが、特に後のテクノと比べるとやたらとドラムが耳に残ります。そこが1970年代のロックに軸足を残しているところで、後のクラブ・ミュージックと一線を画すところでしょう。

 舞台演出には黒テントの佐藤信、美術に妹尾河童を起用して、ファシズムを転倒させる試みがなされるという、ファンへのメッセージもしっかり残した点が彼らによる最大のサーヴィスでしょう。とことん自分たちのやっていることに自覚的な三人ならでは。さすがです。

After Service / YMO (1984 Alfa)