フランク・ザッパ先生の「ロード・テープス」シリーズ第二弾です。先生が「ゲリラ・レコーディング」と呼ぶ、ツアー中に簡単な機材で録音されたために、必ずしも音質は良くないけれども、演奏は一級品という音源を世に送り出すシリーズ第二弾ということです。

 今回の音源は1973年8月23日及び24日にヘルシンキにあるフィンランディア・ホールでのライヴ音源です。このヨーロッパ・ツアーは8月18日から9月14日までの約1ヶ月にわたって行われています。6月にはオーストラリアですから精力的です。

 このツアーの音源としては、「ビート・ザ・ブート」シリーズにも入っている海賊盤「ピカンティック」が、8月21日のストックホルムでのライヴを収録しています。もちろん同じメンバーですし、曲目も1曲を除いてこのアルバムに包含されています。

 ヘルシンキと言えば、YCDTOSAシリーズ第二作の「ヘルシンキ・テープス」が有名ですけれども、そちらは1年後のライヴで、きちんと16トラックのテープに録音されたものです。こちらはというと2トラックと4トラックの簡単な機材での録音です。

 この機材で2日間に行われた3回のステージを収録しており、しかもテープの節約のために一部は半分のスピードで録音されています。さらにヨーロッパ仕様だったために、デジタルに移行するに際して特殊な機材が必要になるという苦労を重ねています。

 そこまで苦労を重ねても発表すべきと判断したのはやはり演奏が素晴らしいからです。とりわけジャン・リュック・ポンティのバイオリンが縦横無尽に活躍するさまは特筆されます。ジョージ・デュークのキーボードとともに本作品の看板となっています。

 ツアー・メンバーはヒット作「オーバーナイト・センセーション」とほぼ同じです。先生と先の二人に加えて、イアンとルースのアンダーウッド夫妻、ブルースとトムのファウラー兄弟、この時期のドラマー、ラルフ・ハンフリーの計8人です。

 先生にとって重要な役割を果たすエンジニアのケリー・マクナブが初めてツアーのエンジニアとして同行したということも、ザッパ・フリークの間では人気のポイントです。彼が機材と格闘する姿を、ヴォールト・マイスターのジョー・トラヴァースが感嘆の目で見つめています。

 本作は3回目のステージの構成に沿って、3回の演奏からベスト部分をチョイスして出来上がっています。一番長尺の「ファーザー・オブリヴィオン」は一曲の中で2回のショーを繋いでいます。ルースが参加していますから、曲のつぎはぎは比較的楽なのでしょう。

 注目すべきトラックは「デュプリーズ・パラダイス」のイントロダクションとしてジョージ・デュークが中心になって演奏するパート、ポンティと先生のソロが冴える「ビッグ・スウィフティー」と「ファーザー・オブリヴィオン」などなどです。まあ全曲いい訳ですけれども。

 確かに音質は今一つではあるのですが、メンバーの体調も良好だったようで、インストゥルメンタル中心の演奏は軽やかで素晴らしいです。そもそも格段に腕の良いミュージシャン達によるこの時期のマザーズの記録ですから悪かろうはずがありません。

Road Tapes Venue #2 / Frank Zappa (2013 Vaulternative)