「元祖パワー・エレクトロニクスの名盤にして基本盤」、ホワイトハウスがデビュー・アルバムのわずか2か月後に発表したセカンド・アルバムです。レコーディングはデビュー作発表前に行われていますから、矢継ぎ早の発表は最初から織り込んでいたのでしょう。

 ホワイトハウスはボーカルとシンセサイザーのウィリアム・ベネットを中心とするバンドで、本作では同じくシンセのポール・ロイターと、エフェクトとエンジニアリングのピーター・マッケイの三人組です。先鋭的なシンセによるノイズ・サウンドがトレードマークです。

 ベネットは、元Xレイ・スペックスの女性サックス奏者ローラ・ロジックが結成したポスト・パンク・バンド、エッセンシャル・ロジックでギターを弾いていました。その彼がシンセに目覚めたのは、後にミュート・レコードを創立するダニエル・ミラーとの出会いがきっかけだそうです。

 そんな過去とはきっぱり訣別して、「かつて存在した最も激しく冷淡な音楽」と、自称するアルバムでホワイトハウスはデビューを飾り、本作はそれに続く二枚目、ポップさのかけらもなく、全編シンセ・ノイズとエフェクトを効かせた叫ぶようなボーカルで出来たアルバムです。

 ホワイトハウスは音楽だけではなく、機関紙を発行するなどして、反社会的なアジテーションを展開していきます。まずはジャケットです。長々と英文が書かれていますが、これはマルキ・ド・サドの「ソドムの120日」からの引用で、気分が悪くなる残虐描写です。

 メキシコのミイラを使ったジャケットも存在しますが、こちらは配給を引き受けたラフ・トレードに拒否されたそうです。ソドム・ジャケットもまずかったようで、結局、このアルバムにはさまざまなジャケットが存在することとなりました。コレクター魂をくすぐります。

 それはさておき、彼らのそうした反社会的な姿勢は熱烈なフォロワーを増やしましたが、一般には忌み嫌われることとなり、ナース・ウィズ・ウーンドのスティーヴン・ステイプルトンによれば、彼の母の家をベネットの連絡先としたためにポストに人糞を入れられたそうです。

 「トータル・セックス」でのホワイトハウスのサウンドは、ロウファイなシンセ・ノイズがすき間なく流れる上で、ベネットの金属質に加工したボーカルが叫ぶというものです。歌詞を聴き取ることはほとんど不可能ですから、これだけではアジテートにはなりません。

 しかし、「ソドムの120日」さながらに、ノイズによる饗宴は禍々しいことこの上ありません。キリスト教世界ならではの悪魔の世界です。残虐なお話は中国などでも多いですけれども、こうした荒涼としたサタンの世界とは異なります。

 ホワイトハウスは神と悪魔の対決をふたたび地上にもたらさんと試みているのではないでしょうか。語義矛盾ですが、落ち着いたエクストリーム・ノイズ・サウンドは、悪魔の側にたって聴く者を追い立てるようです。途中で入る沈黙も追い立てる効果を高めています。

 次作「エレクター」になると、全体にストーリーが出てくるのですが、ここでは劇的な効果を極力排し、あくまで冷徹に醒めたクールな悪魔サウンドとなっています。彼らは根はとても宗教的なのではないでしょうか。ひっくり返せば祈りになるというサウンドです。

Total Sex / Whitehouse (1980 Come Organization)