エマーソン・レイク&パーマーの三作目のスタジオ作品「トリロジー」が発表された頃、彼らの日本での人気は最高潮に達していました。言うまでもなく、「タルカス」と「展覧会の絵」の功績です。この作品はまさに待望の作品だったというわけです。

 アルバムは英国で2位、米国で5位、そしてなんと日本でも4位です。当時の彼らの人気のほどが窺えると思います。若干、時期は前後しますが、ミュージック・ライフ誌の人気投票でもEL&Pは1位に輝いていました。洋楽ファンからの支持は圧倒的でした。

 ちなみに同誌の人気投票はバンドのみならず、各パート毎の投票もあり、EL&Pの三人はいずれも1,2位を争っていました。中でもキース・エマーソンはいち早く1位の座に輝いていました。ギタリストのような人気を誇るキーボーディストは彼が初めてと言ってもいいでしょう。

 このパート毎の投票ですが、誰が好きかというよりも、誰が上手いのかなんてことを一生懸命考えて投票していた記憶があります。楽器なんて弾けないのにお笑い草ではありますけれども、とても楽しかったです。キース・エマーソン対リック・ウェイクマン...なんて。

 さて、この「トリロジー」です。ウェブを渉猟していると、名盤「タルカス」と「恐怖の頭脳改革」に挟まれて印象が薄い作品なんて言われ方が目立ちます。ちょっと待ってください。昔は、このアルバムこそが最高傑作だと言われていたと記憶しています。

 実際、チャート順位は英国でこそ「タルカス」に及びませんでしたが、米国でも日本でも三枚の中では本作が上回っています。「タルカス」や「悪の教典#9」のような長尺の曲こそありませんが、それぞれの曲の密度が濃く、攻撃的なプログレ風味は満載です。

 このアルバムからは米国で「フロム・ザ・ビギニング」がシングル・カットされて全米トップ40入りするヒットになりました。彼らの作品にお約束のように出てくるグレッグ・レイクのアコースティック・ギターとボーカルが全開となるラブ・ソングです。

 この曲など、後半部のキースによるシンセサイザーのやるせない音が曲に一筋縄ではいかない妙味を与えています。ムーグ・シンセサイザーの地平を切り開くキース・エマーソンならではの逸品と言えます。こういうところもEL&P作品の醍醐味なんです。

 コンサートのオープニングを飾ることが多い「ホウダウン」は現代のクラシック作曲家アーロン・コープランドの作品です。途中で「オクラホマ・ミキサー」が出てきたりするお茶目なアレンジで、ここでのシンセの音は偶然見つけたらしいですがとても素晴らしいです。

 最後の「奈落のボレロ」はラヴェルの「ボレロ」と同様の構造をもっており、クラシックを学んでいたカール・パーマーが本領を発揮して、同じリズムを延々と刻む上に、さまざまな音を重ねて盛り上げていきます。重ねすぎてステージで演奏できなかったそうですが。

 本作はキース・エマーソンが当時はまだ駆け出しだったシンセを縦横無尽に使いこなして、幅広い音楽をやって見せたところに最大の魅力があります。聴くたびに新しい発見があるという奥の深いサウンドが展開するという素晴らしいアルバムです。

Trilogy / Emerson, Lake & Palmer (1972 Island)