21世紀に入って初めてのフィル・コリンズのソロ・アルバムです。前作から実に6年、長い長いインターバルですけれども、もちろん遊んでいたわけではありません。そこはさすがに世界一忙しい男です。休めないんでしょうね。

 その間、まずは自身の曲をビッグバンドにアレンジしてライヴを行って、そのライヴ盤を発表しています。続いてディズニー映画のサントラ制作です。「ターザン」はフィルにグラミー賞をもたらしましたし、その後もディズニー担当のようになっていきます。

 この時に膝を打った人も多いのではないでしょうか。フィル・コリンズのソロ・アルバムにロック的な視点から何か違和感のようなものを感じていた人にとって、ああこれはディズニーなんだと納得がいったことでしょう。ディズニー的なアーティストなんですね。

 そんなフィル・コリンズの新作「テスティファイ」は、フィル自身がスイスの自宅で制作したデモをもとに、少数のミュージシャンのみを使って作品に仕上げられました。プロデュースはグリーン・デイとの仕事で知られるロブ・カヴァロです。面白い人選です。

 フィルの他にはギターのティム・ピアス、ベースのポール・ブッシュネルという二人のセッション・ミュージシャンが全面的に参加しており、ゲスト的にお馴染みのダリル・ステュ―マー他が参加しているのみとなっています。極めてこじんまりした編成です。

 その意味では、さほどこだわらない不完全ソロ作とも言えます。加えて、生ドラムへのこだわりも捨てて、マシーンによるドラムも復活しました。1980年代のドラム・マシーンに比べると技術は長足の進歩を遂げていますから、復活というのとは少し違う気もしますが。

 しかし、そうした姿勢が示す通り、もはや50歳を超えたフィル・コリンズは実に自由になりました。金メダルを目指すとか、そういうがつがつしたところはまるでありません。肩の力が上手い具合に抜けて、心の赴くままに作り上げた作品という感じがします。

 冒頭の「ウェイク・アップ・コール」から、最後の「ユー・タッチ・マイ・ハート」に至るまで、浮ついたところのまるでない落ち着いたサウンドが展開していきます。ただし枯れているわけではありません。枯れようというこだわりもないのでしょう。

 「大人のロック」という言われ方に相応しい、当時の最先端サウンドなどに流されない円熟したサウンドがこれでもかと連打されて嬉しいです。もはやいつの時代のサウンドなのか分かりません。しみじみ良いアルバムだなと思うのですが、売れませんでした。

 アルバムからは3枚のシングルがカットされましたが、いずれもトップ10どころか全米トップ40にも入りませんでしたし、アルバムも英国で15位、米国で30位どまりでした。もっともヨーロッパ大陸ではトップ10入りした国も多かった。

 フィルのファンは喜んでライブには行くけれども、もはや新しいCDを買わない人が多いのでしょう。一方で若い人には年寄り向きだと敬遠される。そんな世間の風などに負けずに、こうして素敵なアルバムを制作するフィル・コリンズはやはりスーパースターです。

Testify / Phil Collins (2002 Face Value)