フィル・コリンズ初のベスト・アルバムは1998年10月に発表されました。この当時、私は40歳まで1年とちょっとという微妙な時期でしたので、何かに憑りつかれるようにふらふらとこのアルバムを買ってしまったのでした。恐るべし、フィル・コリンズ40歳の呪い。

 それにしても凄いアルバムです。「ロック史上最強のベスト盤遂に登場!」という煽り文句はあながち間違いではありません。「収録曲の半数が全米ナンバー・ワンという驚異のベスト盤」なんです。残りの半分も新曲を除けば大ヒットの部類に入ります。

 このベスト盤のために録音された新曲はシンディー・ローパーの全米1位となったヒット曲「トゥルー・カラーズ」です。曲も曲なら、プロデューサーも当時ぶいぶい言わせていたベビーフェイスです。シーラEがパーカッションというのも嬉しいポイントでした。

 話題も満載ですし、安定の名曲ぶりです。前作は買わなかったけれども、フィル・コリンズは大好きという年代の人が喜ぶ選曲で見事に心をつかんだのだと思います。あまりに座りが良すぎる気がしてしまうほどのはまりぶりです。

 本作には、これまでの6枚のソロ・アルバムからヒット曲を集めたのみならず、ソロ作に含まれていなかった大ヒット曲を網羅しているという親切が施されています。そこに件のカバーですから、もはや言うことなし。過不足のないベスト盤です。

 ソロ作未収録組は、まずフィリップ・ベイリーとのデュエット「イージー・ラバー」、主演映画「フィル・コリンズinバスター」のサントラから2曲、映画「ホワイト・ナイツ」提供のマリリン・マーティンとのデュエット曲、そして「カリブの熱い夜」から「見つめて欲しい」です。

 驚くべきことに、この5曲中4曲が全米1位となっています。残りの1曲「イージー・ラバー」も全米2位ですから大したものです。ブランドXやジェネシスの色を完全には払しょくできないソロとも違って、思いっきりヒット・ポップスに寄せた成果でしょう。

 チャート的には今一つだった直近2作のアルバムからの2曲はこの曲順で並ぶと生まれ変わったかのような気さえするから面白いです。クラプトンのギターを堪能できる「雨にお願い」も絶妙な曲順での収録です。さすがはヒットを知り尽くした人です。

 この頃のフィル・コリンズは前作がパッとしなかったにも係わらず、大規模ツアーを大成功させるという、もはや観客動員に新作は不要なスーパースターでした。その空気を感じ取って発表されたベスト盤ですから、ファンへの贈りもの的な意味合いが強いです。

 そして最後にまさかの「テイク・ミー・ホーム」で締める。ピーター・ガブリエルも参加したこの名曲はコンサートの締めに使われる曲ですから、ライヴ経験者には堪らないでしょう。どこからどこまで憎い心配りだと思います。さすがはスーパー・エンターテイナーです。

 しかし、曲も良いし、演奏も一流、社会問題にも鋭く切り込む一方で商業的にも特大ヒットとなったにも関わらず、どこか軽く扱われているのは残念です。いつまでもジェネシスのフィル・コリンズと言われていましたし。フィルは正真正銘1980年代を代表するアーティストですが。

...Hits / Phil Collins (1998 Face Value)