フランク・ザッパ先生のオフィシャル・リリース第93弾!です。タイトルは「ファイナー・モーメンツ」で、1972年6月25日付のマスター・テープからCD化されました。ということは、先生自身が構成し、タイトルも付けたものだということになります。

 1972年の先生と言えば、前年末にステージから突き落とされて大けがを負い、車椅子生活を余儀なくされていた頃です。それでも精力的なザッパ先生は「LAから来たバンド」、「ワカ/ジャワカ」、「グランド・ワズー」などの制作に勤しんでいます。

 さらには音楽劇「ハンチェントゥート」を書き上げる勤勉ぶり。命さえ危ぶまれた大けがであったにも係わらずこの仕事ぶりは凄いです。ブックレットにはダリの言葉「怠け者のアーティストには傑作はできない」が引用され、先生の偉大さが身に染みます。

 そんな時期にマザーズ時代の演奏をまとめた「ファイナー・モーメンツ」が制作されていたわけです。あいかわらず作品の質は極めて高いですけれども、あまりに多作だったから陽の目を見なかったのではないかと推測します。

 2枚組アルバムに収録されている演奏は、人気の高いいわゆる十人マザーズ、そこからリトル・フィートのローウェル・ジョージが抜けた後のマザーズ、フロー&エディーを含むタートル・マザーズのものです。そこにザッパ先生の初期の実験曲が加わるという構成です。

 1969年6月のロンドン・ロイヤル・アルバート・ホールでのライブはローウェル脱退後、9人になったマザーズです。「イントロ」含め4曲収録ですが、そのうちの1曲「モーツァルト・ピアノ・ソナタ」は「オン・ステージVOL5」の「モーツァルト・バレー」完全版です。

 イアン・アンダーウッドのピアノに合わせて皆が踊るという変な曲で、ジミヘンでお馴染みノエル・レディングがダンスに係わっているようです。このバンドの演奏はさらに海賊盤「ジ・アーク」に収録されていた同年7月のボストンでのライヴからも1曲収録されています。

 全く同じ音源かどうかわかりませんが、「アンクル・ミート/キング・コング」を編集した「アンクル・リーバス」で、1枚目の最後を飾る18分弱の大作です。この時期のマザーズのばたばたしたリズムと艶めかしい管楽器に先生のギターが素晴らしい演奏です。びしっとしまる。

 2枚目は一転してザッパ先生の実験的な録音作品が続きます。療養中に地下室で録音した作品まであり、これはこれで大いに楽しいです。続いて十人マザーズの69年2月のライヴから2曲で「ミステリー・ディスク」や「オン・ステージVOL4」でも顔を見せていた曲です。

 2枚目の最後はタートル・マザーズのカーネギー・ホールでのライヴからで「パウンド・フォー・ア・ブラウン」と「キング・コング」を編集した曲が約20分。構成は2枚とも同じで、最後に長尺の曲を入れて、マザーズの演奏を堪能させる仕掛けです。

 この頃のマザーズの演奏はとにかく素晴らしいです。流れるようなサウンドがあまりに心地よい。マザーズの昔の音源が続々発表される中、先生本人の選曲・編集が堪能できるのは嬉しいことです。十人マザーズ対タートル・マザーズの戦いは絶賛白熱中です。

Finer Moments / Frank Zappa (2012 Zappa)