1967年6月に開催されたモンタレー・ポップ・フェスティヴァル以降の数か月間を「サマー・オブ・ラヴ」と言い、そこからシャロン・テート事件が起こる1969年8月までの時期、サンフランシスコ周辺はフラワー・パワーに満ち溢れたサイケデリック全開でした。

 その時期に多くのバンドがサンフランシスコからデビューするわけですが、その時代を最も体現しているのがクイックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィスです。グレイトフル・デッドやジェファーソン・エアプレインに比べ、全盛期が短かったため、より時代に密着しています。

 彼らは1965年中ごろにクイックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィスを名乗って以降、精力的にライヴを繰り広げ、モンタレー・フェスにも参加するほどになります。キャピトル・レコードと契約してデビュー作を発表したのが1968年6月、これは続くセカンド・アルバムです。

 リリースは1969年3月のことです。前作が慣れないスタジオで制作されたことから、どうにもダイナミズムに欠ける結果になったと考えた彼らは本作ではライヴ録音を敢行します。これは大正解で、本作品は米国でゴールド・ディスクに輝くヒットとなりました。

 バンドはジョン・シポリナとゲイリー・ダンカンのツイン・リード・ギターを中心に、デヴィッド・フライバーグのベース、グレッグ・エルモアのドラムの4人組です。この構成からしていかにもライヴ向きの布陣です。ギターを弾きまくるバンドなんです。

 アルバムはA面すべてを費やした「愛の組曲」で始まります。この曲はアメリカの伝説の一人ボ・ディドリーによる「フー・ドゥー・ユー・ラヴ」を中心に構成した25分に及ぶ楽曲です。ボ・ディドリー・ビートを活かしたブルース・ベースのサイケデリック全開です。

 フィルモア・イーストとウエストでのライヴが合体編集されており、もともとはもっと長く演奏されたそうです。シポリナとダンカンによるギターの応酬が凄まじい。特にシポリナの人気は高く、ベスト・ギタリスト投票では昔はかなり上位に食い込んだこともあるほどです。

 B面にいくと、最も長い曲「カルヴァリー」が本作中唯一のスタジオ作品ですが、これもスタジオ・ライヴ形式で録音されておりライヴのダイナミズムを損なわない工夫がされています。なんやかんやでB面もほとんど一続きの楽曲と言って差し支えないです。

 このあたりの空気感がいかにもサンフランシスコ・サイケデリックです。ブルースをベースにしたギター・ロックは切れ目なく続いていきます。ほっておくと何時間でもライヴは続いていきそうな佇まいが醸し出されています。サウンドが何ともルーズな感じ。

 この時代のロックはドラッグと切っても切れない関係にありました。演奏しているバンドも聴いている聴衆も一発決めているようで、ステレオの前に座っているとしばしば置いて行かれそうになります。ギターの音がいっちゃってしまいかねない。そこが面白いです。

 ジャケットは古い西部劇のポスターのようで、これがまた何とも言えない傑作です。サウンドを想像するのが難しいところですが、これはこれで洒落がきいています。あの時代のサンフランシスコの有り余るエネルギーを感じさせるサウンドと一体となった名ジャケです。

Happy Trails / Quicksilver Messenger Service (1969 Capitol)