ビーチ・ボーイズと言えば、サーフィンにホットロッド、カリフォルニアのビーチに燦燦と輝く太陽、華麗なコーラス・ワークで脳天気な若者たちの青春を炸裂させる軽快なポップ・サウンド、というイメージでとらえていました。少なくとも1970年代中頃までは。

 この作品は1974年にビーチ・ボーイズの古巣キャピトル・レコードが発表した二枚組ベスト・アルバムで、ビーチ・ボーイズ史上初めて全米1位を獲得しました。世界的にもビーチ・ボーイズ再評価の機運を盛り上げたアルバムです。

 発表当時、リアルタイムで聴いた私はまるで違和感なく同時代のサウンドとして受け止めたのですけれども、よく考えてみれば変なアルバムなのでした。そのことを思い知ったのは後に「ペット・サウンド」を聴くようになってからのことです。

 このアルバムに収録されている曲は1962年から1965年というビーチ・ボーイズ初期の名曲ばかりです。アルバム発表が1974年のことですから、ほぼ10年前の楽曲ばかりということになります。出せばゴールド・ディスクになった時代の曲です。

 その後の10年間というもの、大傑作「ペット・サウンズ」や「スマイリー・スマイル」などのプログレッシブな作品を発表するものの、ブライアン・ウィルソンは次第に音楽制作の第一線から退くことになり、ビーチ・ボーイズも低迷を余儀なくされました。

 その間、残されたビーチ・ボーイズはせっせとライブ活動を行います。それも初期の名曲を中心としたサーフィン・サウンドをもって、米国各地を巡ると、ちょうどロックとともに歳をとり始めたアメリカの聴衆にはこれが大いに受けます。

 盛り上がりに着目したキャピトル・レコードがブライアン・ウィルソンに初期の名曲を選ばせて編集したのがこのアルバムというわけです。日本にはその10年間の情報がほとんどなく、このアルバムが届けられたので、私にはまるで同時代のサウンドのように思えたわけです。

 しかし、ここでのビーチ・ボーイズこそは世間の思い浮かべるビーチ・ボーイズ・サウンドです。「サーフィン・サファリ」に「アイ・ゲット・アラウンド」、「キャッチ・ア・ウェイブ」に「リトル・デュース・クーペ」などなど、生きのよいサーフィン・サウンドは何と爽やかなことか。

 チャック・ベリーのヒット曲の替え歌となっている「サーフィンUSA」などは今でも巷で普通に耳にしますし、多くの曲がポップスのスタンダードとして歴史に刻まれています。後にブライアン・フェリーがカバーする「ドント・ウォリー・ベイビー」も素晴らしい。

 ところが、よく聴いてみると脳天気な軽快サウンドの裏には恐ろしいまでに緻密なアレンジがなされていることが分かります。作り手の皆さんにとってはブライアン・ウィルソンの天才ぶりがまばゆく輝いて見えることでしょう。聴いているだけの私は気楽で結構なことです。

 大変残念なのはロックの名曲オールタイム・ベストの呼び声の高い「グッド・バイブレイション」が収められていないことです。CD再発時に追加収録されたこともあるそうですが、わずかに時期が遅いとはいえ、最初から入れておいてほしかったです。

Endless Summer / The Beach Boys (1974 Capitol)