1970年代最後のセイラーのアルバムです。よく見るとジャケットの女性は裸なのですけれども、まるでエロチックな感じがしない不思議なジャケットです。青空とビーチにヤシの木なのに、何ということでしょう。「ハイダウェイ」の言葉の意味はよく分かる気がしますが。

 セイラーにはめでたくフィル・ピケットが戻ってきました。元の4人組に戻りましたし、プロデュースはゲオルグ・カジャヌスが担当することとなり、結成当時のセイラーと同じ布陣になりました。やはり雨降って地固まるという言葉の実践だと思われます。

 しかし、デビュー作の路線に戻ったかというとそんなことはありません。裏ジャケットには四人のメンバーの写真が掲載されていますが、すっかりセイラー服コスプレはやめてしまいました。全くの普段着、ゲオルグに至っては作業服のようなものを着ています。

 何よりも最大の変化はソングライティングの分担です。この作品ではゲオルグが4曲、ヘンリー・マーシュとグラント・サ―ペルのコンビが4曲、フィル・ピケットが3曲、うち1曲はフィルを除く3人の共作なので、これで10曲となる勘定です。

 これがフィルが戻ってくる条件だったのだろうと察せられます。セイラーのコンセプトはゲオルグのアイデアをもとに出来上がっていますけれども、他のメンバーの貢献も大変に大きいものがあると思われます。それを曲作りを分担することで露わにすることになりました。

 その結果、セイラーらしさはほの見えるものの、ひねくれ度が大幅に下がって、とても爽やかなポップ・アルバムが出来上がりました。ところどころ、ベイ・シティ・ローラーズを思わせるキラキラしたポップな側面が出てまいりました。

 使用している楽器にも初めてエレクトリック・ギターのクレジットが登場しますし、変わった楽器は一切使われていません。もともとステージ用のニケルオデオンは本作のレコーディングには用いられていません。とてもオーソドックスな編成になりました。

 もちろんシングル・カットされた「ギヴ・ミー・シェイクスピア」に代表されるように、ウィットに富んだ歌詞は健在です。特にゲオルグの曲はやはりセイラーの顔だけに、これまでのセイラーの面影を残しつつ、ストレートなポップ路線を走っています。

 やはり一旦はバンドを抜けてまで、ソングライティングのキャリアを追及しようとしたフィルの曲が気になるところです。フィルは自身でリード・ボーカルも披露しており、弾けるポップ・ソングを作っています。なんたって「パジャマ・パーティー」ですよ。

 グラント&ヘンリー組はゲオルグ路線に新風を持ち込んだ作風で、前作から続く安定感で勝負しています。曲のコンペティションが行われた結果、全体にポップ度が高まっており、過去のセイラー作品に囚われなければ、大変良くできたポップ・アルバムと言えると思います。

 ジャケットからも感じられる通り、ディープなヨーロッパ感覚だったセイラーはアメリカンな空気をまとってきました。その意味では10ccよりもスパークスを引き合いにだすことが適当であろうと思います。いずれ劣らぬ極上ポップ職人たちの戦いです。

Hideaway / Sailor (1978 Epic)