飄々として肩の力の抜けた実に何でもありの作風です。初めて聴いた時には普通の曲が一曲もないと思ってしまいました。ブラック・アイド・ピーズはスティーヴィー・ワンダーからプリンス、アウトキャスト、フージーズなどの系譜にあるとんでもないグループです。

 本作品は、ブラック・アイド・ピーズの出世作となった「エレファンク」から2年、満を持して発表された4作目です。米国だけで400万枚、全世界で1000万枚以上というウルトラ・ヒットとなりました。シングル・ヒットも生まれ、年間チャートにでも5位と大健闘です。

 彼らのスタイルはオーガニック・ヒップホップと呼ばれていました。ギャングスタとは対極にある作風で、米国西海岸の出らしく、グレイトフル・デッド以来の伝統であるところの緩い西海岸感が漂っているのが嬉しいです。とても開放的なサウンドです。

 それにしてもこの作品はやりたい放題です。何といっても冒頭がアド街ック天国です。ちゃんとご紹介すると、最初の曲「パンプ・イット」は映画パルプ・フィクションでも有名な「ミシルルー」のサンプリングから始まるんです。ここでまずはおおっとなります。

 続くシングル・ヒット曲「ドント・ファンク・ウィズ・マイ・ハート」には、1985年にヒットした名前からして変なユニット、リサ・リサ・アンド・カルト・ジャムの「アイ・ワンダー・イフ・アイ・テイク・ユー・ホーム」が料理されています。ファーギーによる歌が素敵です。

 同じ曲にはボリウッドの歌姫アシャ・ボスレの曲がサンプリングされており、これがよく聴かないと分からないものの、全体の雰囲気を唯一無二のものにしています。前作の成功で世界中を旅することができたと喜ぶ彼らですから、その成果なのかもしれません。

 ゲストがまた凄い。「マイ・スタイル」にはスーパースター、ジャスティン・ティンバーレイクを迎え、ティンバランドがプロデュースに当たっています。さらに「ゼイ・ドント・ウォント・ミュージック」では御大ジェームズ・ブラウンがフィーチャーされています。

 ジャンル違いの大物といえばスティングとジャック・ジョンソンがいます。スティングは「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」を大胆に料理した「ユニオン」での共演、ジョンソンは「ゴン・ゴーイング」をリメイクしています。どうです。やりたい放題でしょう。

 こうしてとにかくどの曲もサンプリングやインターポレーション、すなわち改ざん、で一筋縄ではいかないのですが、よく聴くと意外に曲自体は重いファンク・ビートが映える正統派です。真正面から真面目に音楽に取り組んだアルバムだということがよく分かります。

 特に紅一点のファーギーを始め、司令塔のウィル・アイ・アム、タガログ語を披露するアップル・デ・アップにタブーのメンバー四人を中心とするボーカルがいいです。電子楽器と生楽器の適材適所な使い分けとこのボーカル、そしてビートが彼らの魅力でしょう。

 「モンキー・ビジネス」には、有名になって人々が彼らを人ではなく商品として見るようになったということ、もしくは象がファンクに関係ないように、猿はビジネスに関係ないということという二つの意味が込められているそうです。まあこのあたりはお遊びでしょうけれども。
 
Monkey Business / The Black Eyed Peas (2005 A&M)