アル・グリーンは1978年に第7回東京音楽祭に出場し、見事にグランプリを獲得しています。この年はケイト・ブッシュも出場して銅賞、パット・ブーンの娘さんデビー・ブーンが金賞、布施明が最優秀歌唱賞、五輪真弓が作曲賞などとなっています。

 グリーンは「愛しのベル」という楽曲でしたけれども、この時、ぼーっとテレビを見ていた私はあまりの歌唱力に思わず正座してしまいました。歌が上手いとはどういうことなのかをそれまで誤解していたとさえ思いました。本人は軽く歌っていたのかもしれませんが凄かった。

 「レッツ・ステイ・トゥゲザー」はメンフィスの貴公子と呼ばれるアル・グリーンが「マーヴィン・ゲイを脅かす全国区のビッグ・ネームへと羽ばたく」ことになった曲であり、アルバムです。ここからアル・グリーン物語が本格的に始まったと言えます。

 スタックスと並ぶメンフィスのソウル・レーベルがハイです。レーベルの設立は1950年代前半と古いですが、最盛期を迎えるのは後に経営者となるプロデューサー、ウィリー・ミッチェルがアル・グリーンと出会ってからのことです。

 子どもの頃からゴスペルを歌っていたアル・グリーンは1968年に別レーベルからデビューしていましたが、それがミッチェルの目にとまり、翌年ハイ・レコードから再度デビューすることになりました。本作はそれから3年、全米1位に上り詰めた表題曲を含むアルバムです。

 もともとゴスペラーですから、派手に歌いたかったでしょうが、ミッチェルはグリーンにソフトに歌うよう説得した模様です。これが功を奏しました。シャウトすることなく、あくまでソフトに、極めて洗練された弾力のある声で歌われます。メロメロになること請け合いです。

 そして演奏がまた素晴らしい。ドラムにブッカーT&MGズでも活躍していたアル・ジャクソンとハワード・グライムス、ベース、キーボード、ギターにホッジス兄弟というリズム・セクション、そしてミッチェルを始めとするホーン・セクションにストリングスという布陣です。

 同じアル・ジャクソンを起用していてもこちらは随分と抑えめのシンプルな演奏です。しかし、このシンプルさが癖になります。誰にも出来そうでいてけっして出来ない、激渋な演奏が素晴らしい。グリーンのソフトなボーカルにぴったりなハイ・サウンドです。

 アルバムの冒頭はもちろんタイトル曲です。美しいメロディーの代表曲です。軽快な演奏にのせて、そっと軽く歌い出すと、さびも含めて終始抑えた調子で曲が進んでいきます。その中に得も言われぬグルーブが浮き出てくるところが凄いです。

 この曲はミッチェルとジャクソン、そしてグリーンの共作です。アルバムにはビージーズのカバーも含まれていますが、ほとんどがアル・グリーンの手になる曲です。もうこの演奏とこの歌ならば、曲は何でもよいのではないかと思いますが、ちゃんといい曲が揃っています。

 ハイ・サウンドはこの作品で完成したと言えるのでしょう。洗練されてはいますが、体温を感じるサウンドでもあり、醸し出されるグルーヴに酔いしれてしまいます。アル・グリーンにささやくような歌を歌わせたことはミッチェルの見る目が確かな証拠でした。

Let's Stay Together / Al Green (1972 Hi)