宮本笑里はあの宮本文昭の娘さんなのか、宮本文昭はあの宮本笑里のお父さんなのか、どちらの評価が残るのか、父娘の戦いに決着がついたわけではありません。CMでもみかける笑里娘に対して、文昭父もタモリ倶楽部などで頑張っていますから。

 宮本笑里の名前を初めて聞いたのは彼女がドイツの学生音楽コンクールで第1位となったときのことではなかったかと思いますが、それからもう20年も経ちます。それなのに彼女はまるで歳をとらない。このジャケットを見て私はひょっとして別人かと思ってしまいました。

 彼女のアルバムデビューは2007年のことで、本作品は8作目のアルバムとなります。本作品は、「宮本笑里、初の全曲クラシックのヴァイオリン名曲集」とされています。してみると、彼女のこれまでのアルバムはそうではなかったということです。

 容姿端麗に生まれるというのもなかなか大変なことです。彼女のこれまでの活動は、世間の求めに応じたのでしょう、女性クラシカルバンドのヴァニラ・ムードやら、Jポップ歌手とのコラボなど、ポピュラーな色彩が強かった印象があります。

 このアルバムでは、「宮本笑里の原点であるクラシックの世界に焦点を当て」ました。伴奏は数々の受賞歴を誇る宮本と同い年の佐藤卓史のピアノのみという潔さで、バイオリンを弾きまくっています。よくもまあこれだけバイオリンが光る曲を集めたものです。

 確かにクラシック作品ばかりなのですが、どの曲も美しいメロディーの小品ばかりですから、ポップス的なアルバムの仕上がりだとも言えます。ただし、アルバムの最後にバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」が置かれたことで、クラシックらしさが100倍になります。

 曲数は全18曲で、バルトークの「ルーマニア民族舞曲」がうち6曲とカウントされています。これを除けば最も多いのがフリッツ・クライスラーの3曲、「美しきロスマリン」、「愛の悲しみ」、「愛のよろこび」です。これがもう信じられない甘い曲で、そのメロディーにのたうちます。

 ラフマニノフの「ヴォカリーズ」の1曲と合わせて、これぞ宮本笑里のバイオリンと言えそうです。生で聴くと一気に彼女の虜となってしまうことでしょう。ついでにフォーレの「シシリエンヌ」ではゴッドファーザーの香りすら漂ってきます。これも笑里節なんでしょう。

 一番長い曲はサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」です。この曲は「演奏会などで必ず演奏する、今や宮本笑里の代表曲になった」一曲です。私は「ツィゴイネルワイゼン」と言えば、どうしても鈴木清順監督の映画を思い出してしまいます。

 そのおどろおどろしい映像と音像を思い浮かべてしまうと、ここでの軽やかな演奏がとても新鮮に思えてきます。この曲に限らず、本作品のサウンドは全体にとても軽やかです。あえて低音を強調していないように思います。

 美しい歌うようなメロディーの楽曲を、ピアノだけを伴に軽やかに演奏することでバイオリンの音色そのものを丁寧に聴かせるアルバムであろうと思います。舞曲も収録することでバイオリンのいろいろな顔も見えます。ちょっといい感じのアルバムです。

Classique / Emiri Miyamoto (2018 ソニー)