ミュージック・マガジン誌の40周年記念増刊号のアルバム・ランキング200において、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの「スタンド!」は堂々11位に輝いています。ちなみに10位は「ジョンの魂」、12位は「クリムゾン・キングの宮殿」です。

 時代を画する名盤であることは間違いないにしても、この日本で1969年から2008年の間に発表されたオール・ジャンルのアルバムの中から11位。このランキングで最も意外に思ったところです。ちなみに次作「暴動」はさらに上位で何と4位です。

 「スタンド!」はスライ&ザ・ファミリー・ストーンの4作目のアルバムで、彼らが大ブレイクを遂げたアルバムです。シングルでも発売された「エヴリデイ・ピープル」は彼ら初の全米1位を記録する大ヒットになり、アルバムもビルボードで13位ながら300万枚の大ヒットです。

 このバンドはスライ・ストーンを中心に彼の弟フレディーと妹ロージ―、そこに白人リズム隊としてドラムスにグレッグ・エリコ、ベースにはチョッパーの創始者の一人ラリー・グレアム、そしてトランペットのシンシア・ロビンソン、サックスのジェリー・マルティーニで7人組です。

 まさに血縁ファミリーが核となりつつ、人種差別の色が濃かった1960年代にあって白人と黒人の混淆した大きなファミリーのバンドとして、社会的文化的にも大きなインパクトを与えました。「ドント・コール・ミー・ニガー・ホワイティ」なんですから。

 スライ・ストーンはサンフランシスコのバーでバンド演奏をする傍ら、ラジオのDJとしてロックやソウルをかけまくっていたことに加え、そしてヒッピー文化の中心地ヘイト・アシュベリーのアシッド・ロックのシーンでも顔を知られるようになっていきました。

 この経歴に現れるすべての音楽を混淆したのがスライ&ザ・ファミリー・ストーンの音楽です。そしてその完成形が「スタンド!」です。うねるような躍動感に満ちたサウンドに、キレのいいホーン、おどろおどろしいボーカルにチョッパー・ベースが跳ねるファンク・サウンドです。

 ピーター・バラカン氏は彼らのサウンドを「ソウル・ミュージックとしてはまったく意識していませんでした。ビートに『ため』があったわけでもないし、ホーン・セクションの使い方も『白い』感じがしました」と語っています。この作品のざわざわする感じを見事に言い表してくれました。

 そうなんです。ソウルとロックの交差するところにあるサウンドなんです。そのために白人にも黒人にも人気を博することができて、大ヒットにつながりました。それにメッセージが明るい。なんたって「スタンド!」ですし、「アイ・ウォント・トゥ・テイク・ユー・ハイヤー」です。

 ディープなソウル・ミュージックではなく、よりプログレッシブでロック寄りのファンク・サウンドがスピーカーからダダ洩れてきます。この延長線上にプリンスを置いてみると見事につながるのが本作の味わいでしょう。確かに時代は一つ開かれました。

 このアルバムを発表した直後の夏、彼らは伝説のウッドストックに出演して、フェスのハイライトの一つとなっていきます。日本での評価がそんなに高いのは知りませんでしたが、ポピュラー音楽史上の最重要バンドの一つであることは間違いありません。

参照:「魂のゆくえ」ピーター・バラカン(ARTES)

Stand! / Sly and Family Stone (1969 Epic)