アルベド・ファンタスティカは、2015年にヒグチケイコとSachikoの二人によって結成されたユニットです。アルベド、どこかで聞いたことがあると思ったら、ヴァンゲリスのアルバムでした。天体の光の反射率のことです。ファンタスティックなアルベド。素敵な名前です。

 ヒグチとサチコは、新人などではなく、それぞれがいろいろなプロジェクトに参加してきたベテランで、さまざまなレーベルから作品をリリースしてもいます。その意味では、このユニットはスーパー・ユニットと言ってもよいかと思います。

 本作品は、「馥郁たるフィメールデュオ」であるアルベド・ファンタスティカのファースト・アルバムです。収録されているのはアルバム・タイトルと同名曲「暗渠と夜空」1曲のみ、37分の間、即興演奏が繰り広げられていきます。

 クレジットによれば、ヒグチは声とピアノ、サチコは声、エレクトロニクス、パーカッション、メロディカを担当しています。歌ではなくて声、ボーカルではなくてボイスです。二人ともボイス・パフォーマーとして定評があるそうで、本作でもそのパフォーマンスは全開です。

 アルベド・ファンタスティカは、「言葉やメッセージにこだわらず声を基調にユニバーサルな言語を模索し、音楽全てを聴き手それぞれの背景や可能性に委ねる」それまでの活動に加え、「空間性、時間軸、身体性を多角的に拡張すべく」結成されたと紹介されています。

 そのことは「暗渠と夜空」が流れ出した瞬間に了解されます。普通の意味での言葉は一切出てこず、身体全体を共鳴させたかのような声が、楽器の音と絡み合って、フリー・インプロビゼーションを繰り広げていきます。37分間の目くるめく共演です。

 楽器の中心はヒグチのピアノです。サチコはエレクトロニクスやメロディカで対峙します。しかし、両者とも中心に座るのはもちろん声。リズムが浮き上がってくるわけではないタイプの即興演奏で、二人の交感ぶりがユニットらしい音像を作っています。

 最初に聴いた時には、魂の司祭、灰野敬二の弾き語り時代を思い出しました。同じサウンドの系統に連なっているものと思います。そしたら、写真を見ると、なんとビジュアルまで結構似ています。まあサングラスにストレート・ロン毛だったら誰でも似るものですが。

 この作品はドーナツ盤のサイズのジャケットに封入されるという不思議な形で発売されました。フランスのレーベルからの発表で、このビジュアルはそちらの企みでしょうか。CDも密封されていて、手間のかかる仕様。このジャケットには主張が隠されていそうです。

 比較的分かりやすい即興サウンドを聴きながら、このジャケットを見ていると「その濃厚で予想不能のソニック・トリップへ運ばれていく」感覚が沸き上がってきます。聴覚のみならず視覚も動員する二人ですから、さぞやライブは恐ろしいことになっていることでしょう。

 彼女たちは地下アイドルならぬ地下音楽家とも言われるようです。日本には確実に音楽の地下水脈が存在し、今夜もどこかでこうした音楽が奏でられているようです。積極的に探しにいけば、豊潤な世界が開けていることを思い知りました。

Culvert And Starry Night / Albedo Fantastica (2019 Anarchives)