「数十年に一人の才能とも言わしめるジュリアン・ラージによる」初のセルフ・プロデュースによるアルバムです。たかだか100年しかないジャズの歴史において数十年に一人ですから盛り過ぎの感はありますが、それだけ期待が高いということでしょう。

 また、ジュリアンは12歳の時にグラミー賞授賞式で演奏しており、その頃から「神童」と呼ばれていましたから、大人になった今、神童の発展形としての数十年に一人ということなのかもしれません。ジャズ・ギターの新たな歴史を作る役割がしょわされました。

 本作品のタイトルは「ラヴ・ハーツ」。聴いてみるまでまるで気がつきませんでしたが、あの「ラヴ・ハーツ」でした。エヴァリー・ブラザーズの名曲というよりも、ナザレスがカバーしたあの名曲「ラヴ・ハーツ」です。ナザレス版は1975年のヒットです。

 この曲はベタベタにベタなメロディーを持つバラード曲です。ジュリアンは照れることなく、それをほぼそのままギターで弾いています。比較的太い音色で、装飾音をつけまくるでもなく、ストレートにメロディーの魅力をギターで表現しています。

 昔は「魅惑のギタームード」などと題されるレコードが数多くありました。シンプルなオケをバックに歌謡曲のメロディーをギターで弾くというイメージの作品です。粗製乱造気味でしたし、その安直さにロック小僧やジャズ・ファンからは毛嫌いされていたものです。

 「ラヴ・ハーツ」を聴いて、そんな作品の頃のことを思い出しました。考えてみれば、それほど毛嫌いする必要もなかったですし、恐らく、中には名盤もあったことでしょう。若い才能に正面から堂々と取り組まれると、思わず感動してしまうものです。

 本作品は、ジュリアンのギター、バッド・プラスやハッピー・アップルといったジャズ・バンドのメンバーとして名高いドラムのデヴィッド・キング、シャイ・マエストロ・トリオのベーシストでリマ出身のホルヘ・ローダーによるトリオ編成でのアルバムです。

 キングとジュリアンは18歳も歳が違い、ローダーがちょうどその間くらいの年齢です。そんな歳の差などものともしない、ジュリアンのリーダー作ぶりです。リズム・セクションが若い才能をしっかり支えようとする姿勢がまとまりを生んでいるのでしょう。

 選ばれた楽曲は「ラヴ・ハーツ」系ではロイ・オービソンの「クライング」があります。こちらも比較的ベタなバラードで涎が出そうです。そうした展開とは別な系統では、オーネット・コールマン、キース・ジャレット、ジミー・ジュフリーというジャズの王道曲があります。

 さらにトミー・ドーシーのビッグバンド曲「センチになって」に映画「イレイザーヘッド」の「イン・ヘヴン」。これらで全10曲です。どの曲でも抑制のきいた太い音色のギターが歌い上げています。しみじみとしたムードたっぷりの魅惑のギターサウンドです。

 1988年生まれのジュリアンにとっては生まれる前の時代の音楽を掘り進めて、それを素直に自分自身のトリオで表現しているということです。これは懐かしがって聴くサウンドではありません。邪気のないスピリッツによる新しい音楽です。

Love Hurts / Julian Lage (2019 Mack Avenue)