デビュー作が好評だったため、さっそくセカンド・アルバムが制作されました。ギャグと音楽という構成は前作と同じですけれども、本作品では両者が入り混じることはなく、ギャグはギャグ、楽曲は楽曲として存在しています。要するに曲にお笑いの要素がありません。

 一方で、アルバムには明確なコンセプトがあります。愛と平和です。ジャケットは赤十字を模したものになっています。私が持っていたLPは赤だったと思うのですが、どうやら赤十字からクレームが来たようです。ギャグがブラックだったりピンクだったりしますからね。

 本作収録の楽曲には桑原茂一の「選曲家」としての本領が発揮されました。とりわけ、カンのホルガー・シューカイのソロからの一曲「ペルシャン・ラヴ」はマニアにしか知られていませんでしたが、本作に収録されたことによって日本でも大いに人気を博しました。

 さらにザ・ポップ・グループからの分裂組リップ・リグ&パニックも意外な選曲でしたし、当時ブームになりつつあったインドネシアの大衆歌謡ダンドゥットにバリ島のガムランも斜め上からお洒落でした。細野晴臣の影が見える選曲です。あと、ザ・スポイルも参加しています。

 さらに高橋幸宏が一曲提供していますし、坂本龍一はギャグ・スケッチ「愛の嵐」でサティのジムノペディアを弾いています。そしてスネークマンショーとは切っても切れないピテカントロプス仲間のプラスチックスの二人中西俊夫と佐藤チカが中心となったメロン。

 メロンの「アイ・ウィル・コール・ユー」にはB-52ズやエイドリアン・ブリューも参加しています。「ハニー・デュー」とともに本作品が初出だったはずで、前作でYMOが果たしていた役割を今回はメロンが果たしているという感じがします。

 宮沢章夫は「80年代地下文化論講義」の中で、オタクの時代と言われる1980年代には、原宿のクラブ、ピテカントロプスを中心に花開いたカッコいい文化もあったことを強調しています。その中心は桑原茂一であり、プラスチックスの面々でした。

 宮沢は対比させていますが、私は両者は世間一般からすれば同じ「特殊な趣味を持つ排他的な集団」として一蓮托生であったのではないかと思います。メディアの扱いも一方は誹謗中傷で、一方は阿諛追従で、という違いはあるものの同様に品がありませんでした。

 1980年代に花開いたいわゆるサブカルにおける最強の存在はピテカン一派であったと思います。本作品は愛と平和をテーマにギャグが展開していくわけですが、サブカルらしい露悪的で冷笑的な手法がとられており、きわめて80年代的です。

 若者世代に横溢していたこのサブカル気分は個人と社会の距離を致命的に広げてしまったという点で罪深いです。スネークマンショーのの場合は世代的にも政治の季節を経験した上でのサブカルでしたが、若者にはそのスタイルだけが骨抜きに理解されていったわけです。

 「死ぬのは嫌だ、恐い、戦争反対!」という明快なスローガンはパロディーでも何でもない真剣なものだと思いますが、当時の空気の中ではなかなか額面どおりは理解されませんでした。ハイセンスな選曲と明快なメッセージのバランスがとても良い作品でしたけれども。

Snakeman Show / Snakeman Show (1981 Alfa)