スティーリー・ダンの最高傑作とされる6作目、「彩(エイジャ)」です。この作品は彼らの作品の中で最も売れたアルバムです。チャートでも全米3位を記録し、初のプラチナ・アルバムに輝きました。そして、グラミー賞も受賞しています。最高傑作に相応しい暴れぶりです。

 当時、日本でも再び大いに人気を呼び、私もリアルタイムで聴いて感嘆しました。特にシングル・ヒットもした「ディーコン・ブルース」。洗練されたサウンドというのはこういうものかと、ステレオの前で腕組みしておりました。

 本作は前作からわずかに1年と少しで発表されました。前作が比較的固定されたメンバーだったのに対し、この作品ではたとえば全7曲に対し、6人のドラマーが起用されているなど、怖ろしいまでの贅沢ぶりです。もちろん全員超一流です。

 ポール・ハンフリー、スティーヴ・ガッド、バーナード・パーディー、リック・マロッタ、エド・グリーン、ジム・ケルトナー。彼らのセッション歴をまとめるだけで、この時期までのロック史はもちろん、ジャズやソウルの歴史もある程度語ることができます。

 本作品にはベッカー=フェイゲンさえ、気軽に声を掛けることが躊躇された大物ウェイン・ショーターも参加していますし、前作に引き続いてラリー・カールトンもほとんどの曲でギターを弾いています。「私はピアノ」は1980年ですが、カールトン人気は日本でも高かった。

 この作品は本当に隙がありません。これまでのアルバムも完成度が極めて高かったわけですけれども、本作品は別格ではないでしょうか。曲が長くなったのもその要因の一つでしょう。なぜか頑なに4分程度の曲しか作っていなかった彼らが長めの曲を解禁しました。

 ドラマーを曲ごとに代えて、しかもリック・マロッタをして「僕の最高のプレイだ」と言わしめたパフォーマンスを引き出し、これ以上ないゴージャスなサウンドを展開しています。しかも、全体のトーンが落ち着いています。円熟という言葉が自然に出てくるサウンドです。

 ドナルド・フェイゲンは、本作の制作過程を映像でつづったクラシック・アルバムズの中で、自分たちはテレビ世代で、テレビから流れてくるチープなジャズやジャズまがいのサウンドに大いに影響を受けているというようなことを言っています。

 円熟を感じるゴージャスなサウンドの中に、どこかしらキッチュな感じを漂わせるスティーリー・ダン・サウンドを的確に表現した発言だと思います。そうなんです。決してお高くなりすぎないのはやはりテレビの影響でした。ユーチューブ世代には分からないかもしれません。

 本作からは「ペグ」と「ディーコン・ブルース」の2曲がシングル・カットされ、どちらもそこそこのヒットを記録しました。「ペグ」は、ドゥービー・ブラザーズでも活躍するマイケル・マクドナルドのコーラスが冴えるひょうひょうとした曲です。

 やはりとどめは「ディーコン・ブルース」。スティーリー・ダンの全てが詰まった曲です。メロディーのセンス、浮遊する分厚いギターなど全編聴きどころだけで出来ています。この曲を中心にとにかく一音一音が粒だっている恐ろしいアルバムです。

Aja / Steely Dan (1977 ABC)