スティーリー・ダンの記憶の穴埋め第二弾は4作目の「うそつきケイティ」です。リアルタイムでは聴いていなかっただけで、もちろん今初めて聴くわけではありませんが、どうしても私には馴染みが薄い作品です。しかし、一般に評価はとても高いアルバムです。

 アルバム自体は全米13位まで上がるヒットとなっています。ただし、シングル・ヒットには恵まれませんでした。「ブラック・フライデー」、「バッド・スニーカーズ」と渾身の名曲をシングル・カットしたにも関わらず、玄人受けこそすれ、一般大衆の心をつかむに至りませんでした。

 前作「プレッツェル・ロジック」にて、レコーディング作業においてはほぼバンドが解体されてしまいましたけれども、ツアーは続けていましたから、バンド自体は存続していました。しかし、ついに本作の頃にはそのバンドも解体しました。

 もともとツアーを想定していなかったウォルター・ベッカーとドナルド・フェイゲンです。無理してステージに立っていたものの、ここへきてツアーから、「一銭も持たず、衰弱し、幻滅して」戻ってくると、ついにツアーを辞める宣言をしてしまいます。

 ツアーを続けることを主張した仲間とは道を分かつことになりました。一番ツアーが好きそうなジェフ・スカンク・バクスターは早々にドゥービー・ブラザーズに移籍してしまいます。レコード会社からもその方針に理解を得たことで無事に本作にたどり着くことができました。

 リマスター再発盤にベッカー=フェイゲンが書き下ろしたライナーノーツは日本語訳も原文もますます意味不明になってきましたが、とりあえずその辺の事情は分かりました。また、あまり本作に愛着がありそうな書き方ではないことも分かります。

 「うそつきケイティ」というナイスな邦題の元となった原題は本作中の「ドクター・ウー」に出てくる一節からとられています。この曲はジャズ・ミュージシャンのフィル・ウッズのサックス・ソロをフィーチャーした素敵な曲です。メンバーは音質に問題ありとしていたそうですが。

 本作品からはメンバーのクレジットはなく、参加ミュージシャンがベッカー=フェイゲンも含めて同列に記載されることになりました。二人の完璧主義がいよいよその度合いを深めてきており、各楽曲の細部にわたり、実に綿密に考えられています。

 その時々に得られる最上の音を組み合わせて楽曲を作り上げていくという姿勢は、バンド幻想華やかなりし当時にあっては不思議な気がしたものです。しかも、楽曲は一応ポップで親しみやすいメロディーを持っているのに。

 こうしたプロデューサー気質はヒップホップの時代になると当たり前になってきます。スティーリー・ダンがいかに時代に先んじていたかということです。より頑固になったこの作品もまた聴けば聴くほど味わいが深いです。前作の流れを汲みつつも、より洗練の度を増しました。

 たとえば「バッド・スニーカー」のサビ直後のギターとか、「エヴリワンズ・ゴーン・トゥ・ザ・ムーヴィーズ」のヴァイブとか、スティーリー・ダンらしい気になる小ネタの数々を「ここ、ここ」なんて言いながら友達と聴くのが楽しいアルバムだと思います。

Katy Lied / Steely Dan (1975 ABC)