「エクスタシー」をスティーリー・ダンの最高傑作だと主張する人は、ディナー・テーブルを共にしたくないような人だし、アドレスを知られてしまうとストーカーになってしまったりするような人です。ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーの二人がそう言っています。

 二重三重に捻られているので、真意を測りかねますけれども、少なくともフェイゲンは本作品をスティーリー・ダンの作品の中で一番好きだと語ったことがあります。しかし、これもまた皮肉かもしれません。それほど彼らの発言は解釈が難しい。

 「エクスタシー」はスティーリー・ダンの二作目です。商業的には前作にまったく及びませんでしたし、何よりも大きなシングル・ヒットが出なかったので、当時、日本では扱いが薄く、私は不覚にもまるでスルーしてしまっていました。

 しかしながら、どうやらベッカー=フェイゲンが憎からず思っている通り、本作品はなかなかの傑作です。スティーリー・ダンのアルバム中、最もジャズ・ロック色の濃い作品で、一般のロック・バンド的なアルバムとしてのまとまりがあります。

 急造バンドだったスティーリー・ダンですけれども、本作品ではバンドとしてのまとまりが生じています。ベッカー=フェイゲンも、バンド・メンバーを意識して曲を書いたと証言しています。彼らにも素直にバンドを追求しようとした時期があったということです。

 前作で甘いボーカルを聴かせてくれたデヴィッド・パーマーは脱退し、5人組となっていたスティーリー・ダンは基本的にこの5人でサウンドを完成させています。ただ、本作にもパーカッションのヴィクター・フェルドマンや、サックス・チームなどの客演は一応あります。

 メンバーと被る楽器奏者としては、美少年ギタリストのリック・デリンジャーが「ショウ・ビズ・キッズ」にてスライド・ギターを聴かせているのが目立つくらいです。スタジオ・ミュージシャンの起用は最小限として、バンドとしてのアンサンブルを追及したわけです。

 リード・ボーカルにはようやく腹が座ったとみえ、全曲がドナルド・フェイゲンになりました。それもアルバムとしてのまとまりを醸し出す要因の一つです。全体にジャズ寄りのサウンドになっている点も大きい。要するにタイトにしまったアルバムです。

 しかし、レコード会社は彼らの意図に反して、レゲエのドラム・パートを差し替えたり、「完全すぎる」ミックスが破棄したり、ジャケットのイラストに「数人の人物」を書き加えたりしています。ここらあたりも新人バンド扱いと言ってよいでしょう。バンドです。

 そんなこんなで「戸惑いと失望」をレコード会社に与えたアルバムですけれども、聴けば聴くほど味のある作品です。私は、後のスティーリー・ダンを知った後で聴いたので、そのバンドらしいジャズ・ロックに驚きつつも胸が熱くなりました。

 シングル・カットされた「マイ・オールド・スクール」や「ショウ・ビズ・キッズ」などはヒットこそしませんでしたが、アルバムの中に置かれるととても座りが良く、しみじみとサウンドに耳を傾けてしまいます。私もストーカーの仲間入りでしょうか。

Countdown To Ecstasy / Steely Dan (1973 ABC)