いわゆる「テクノデリック」なるタイトルで発表されたYMOの6枚目のアルバムです。ジャケットは2種類あり、こちらはクラフトワークの人形のような三人の姿が写ったものではない方です。どちらも有名なアーティ・ディレクターの奥村靫正によるデザインです。

 テクノとサイケデリックでテクノデリック。前作の「BGM」とはうって変わって、三人の素が感じられる分かりやすいタイトルになりました。サウンドの方も題名が示す通り、オーガニックな感触が強くなり、いわゆるテクノ・ポップとはもはや呼べなくなってきました。

 坂本龍一曰く、「非常に整った正弦波の世界から、『BGM』みたいなノイズを経由して、もっとギザギザの多い、複雑な現実音に向かうという、方向性としては一貫している」、YMOの来し方です。大変安心して聴けるサウンドです。

 前作ではツアーに疲れてさぼり気味だった坂本が、ソウルを旅行して元気になって帰ってきました。YMOは再び三人が力を合わせて文殊の知恵を発揮し始めました。その象徴的な曲が、三人の共作となる「体操」でしょう。エビ中もカバーした名曲です。

 ミニマル・ミュージック的であり、ブギーであり、変な歌詞であり、というとにかく楽しい曲で、これは「3人でスタジオに入ってやってますから」。また、この曲には「足の関節の裏のふくらはぎのところを、手で押さえて『プッ』っていわせる音」をサンプリングしています。

 本作では世界初とも言われるサンプリングが活躍しています。YMOのコンピューター・マスター松武秀樹によるカスタム・メイドのサンプラーが本作制作の最中に完成し、それが使われているんです。本作では他にも工場音などの環境音もサンプリングに使われました。

 世界初の称号は諸説ありそうですが、ここでのサンプリングの使用はとても自然なので、何の違和感もありません。本作では細野晴臣のベースや坂本のピアノがこれまで以上に活躍していますから、現実音の比重が高く、サンプリングとは相性が良かったのでしょう。

 この工場音があからさまに使われているのは、坂本作曲の二曲、「前奏」と「後奏」です。アルバムの最後に続けて置かれたこの2曲は、ミュージック・コンクレート風のインストゥルメンタル曲で、かなり環境音楽っぽいです。

 一方、細野が大好きだという冒頭の「ジャム」は、いきなり高橋幸宏の叙情味溢れる多重録音のコーラスから始まります。高橋によれば、「イエロー・サブマリン」の映画の中にそっくりなのが出てくるんだそうです。ビートルズから始まるのは安心ポイントです。

 細野のアイデアによるインドネシアのケチャを取り入れた「新舞踊」、韓国なのかインドネシアなのか坂本による「京城音楽」、二人に頼まれて細野がベースを弾きまくった「灯」など、アルバムの各楽曲には聴きどころしかありません。

 現実音への感度の高さ、民族音楽への敬意など、「シンセでなくてもYMO」というアイデンティティーが確立したからこそ発露する要素が満載です。YMOの音楽はここに一旦完成したのではないかと思ったものでした。さすがのお三方です。

Technodelic / YMO (1981 Alfa)