このアルバムからイエロー・マジック・オーケストラの表記がなくなり、YMOとなりました。ツアーで疲弊しきったYMOの面々は、それまでの正弦波ポップからノイズを導入したサウンドへと名前とともに変化していきました。

 企画盤ぽかった「増殖」を除いて3枚目となるYMOのアルバムです。タイトルは「BGM」。細野晴臣によれば、YMOに入り込むのは危険なので、「聴くときには距離を置いて、BGMのように聴いてくれ」という意味がこもっているのだそうです。

 実際、この頃「YMOをイルカに聴かせたら、イルカが逃げた」とか、ドイツではYMOを「聴き過ぎて精神病院に入ったやつがいた」とか聞かされていたんだとか。となると、その対象となっていたのは「ソリッド・ステイト・サバイバー」までのサウンドですね。

 本作品は、「ファン切り離し」と高橋幸宏が語っている通り、前作のサウンドからは大きな歩行転換がはかられています。ディスコ的なリズムやオリエンタルなムードが漂い、耳について離れないメロディーは影を潜め、先鋭的なニュー・ウェイブ・サウンドが登場しました。

 細野の「YMOは女子供のバンドじゃないんだぞ」という自負、坂本の「結局僕ら3人ともすぐ飽きちゃうんで。結局ツアーなんていうのは、毎日同じことの繰り返しなわけだから」というロック・スターにはなれない音楽的冒険志向の産物なのでしょう。

 とはいえ、こういう話になると3人が歩調を合わせてというわけにもいかず、坂本はレコーディングをさぼることも多かったようです。2003年紙ジャケ盤に同封されたインタビューを読むと本作を嫌いじゃないとしつつも、結構批判的です。

 ひとつはウルトラヴォックスの影響についてです。本作品の中の代表曲とも言える「キュー」は確かに当時英国でブレイクしていたニュー・ウェイブ・バンド、ウルトラヴォックスの楽曲に雰囲気が良く似ています。高橋幸宏は無邪気にその点を隠そうともしません。

 ウルトラヴォックスの「パッショネート・リプライ」について、「細野さんといっしょにスタジオで聴いて、何回聴いてもいい音だなあって思って。あれが『キュー』になるんですけれども(笑)」。「ここまでまねしていいわけ?」と坂本教授。なんだか面白い話です。

 YMOはこれまでもメンバーそれぞれが作曲していましたけれども、本作ではよりそれぞれの個性が際立ってきており、その振れ幅がとても気持ち良いです。実験精神がより素直に発露されることになりました。歌詞をメンバーが手掛けることになったのも大きいです。

 中では高橋幸宏の2曲「バレエ」と「カムフラージュ」がそのロマンチシズムでもって、後から振り返るとアルバムの顔となっています。その他の実験的な曲を含めて音楽的な完成度が高い分、狂気というか危険性は後退して、意外にも耳に優しいところも魅力的です。

 本作品は100万枚には及びませんでしたけれども、それでも30万枚を超える大ヒットです。惰性で買った人も多いと分析していますけれども、こうした実験的なサウンドが30万人の耳に届いたことはその後の音楽シーンにとっては計り知れない影響を与えました。
 
BGM / YMO (1981 Alfa)