フィリップ・グラスの音楽を聴くと人は踊りたくなります。ダニエル・グラスル選手は2018年のフィギュアスケート・イタリア選手権をフィリップ・グラスの「ダンスピース」で制覇しました。演技の動画を見ると、これ以上ないくらいにフィットしています。

 グラスの「ダンスピース」は、「イン・ジ・アッパー・ルーム」と「グラスピース」という2つのバレエ音楽が収録されています。両者はお互い関係があるわけではないので、本作品はバレエに着目したコンピレーションということができます。

 「イン・ジ・アッパー・ルーム」はアメリカの有名なダンサーにして振付家トワイラ・サープとのコラボレーションです。初演は1986年7月7日、サラトガ・アート・センターでのことでした。当時は名前が付けられていなかったこのコラボは大好評で迎えられました。

 全体は9つのパートに分けられていて、このCDにはそのうちの5曲が収録されました。ミニマルなフレーズが繰り返されて、グルーヴが生まれていくパターンは同じですから、踊りにはもってこいです。終盤に向けて盛り上がっていくさまは圧巻です。

 後半は「ウエスト・サイド物語」の振り付けで有名なジェローム・ロビンスによる「ダンスピース」が収録されています。こちらは1983年5月12日にニューヨーク・シティー・バレーによって初めて演奏されました。36人ものダンサーで始まる派手な舞台な模様です。

 「ダンスピース」は3つのパートに分かれており、最初の二つは「グラスワークス」収録の「ルーブリック」と「ファサード」をそのまま使っています。最後の第三部はちょうど1年後に初演されることになるオペラ三部作の最終作「アクナーテン」の「葬儀」が用いられました。

 「葬儀」は「アクナーテン」の中ではフルオーケストラによって演奏されますけれども、このCDではフィリップ・グラス・アンサンブルが演奏しています。何でもこれはコンサート・ツアーで演奏された形なんだそうです。

 「ダンスピース」はいかにもロビンスがグラスの音楽を聴いて、振り付けてみたいと思い立ったのがきっかけだという感じがします。その意気に感じたグラスがまだ発表していない「葬儀」を提供したのではないかと勝手に解釈しておきたいです。

 グラスにしてはドラムスやパーカッションが活躍する派手な曲で締めることによって、ダンスも大いに盛り上がったことでしょう。既存曲の寄せ集めなのに、見事にまとまりのある構成になっており、ダンスの光景が目に浮かぶようです。

 演奏はいずれもマイケル・リースマン指揮のフィリップ・グラス・アンサンブルです。その中では、日本人ヴィオラ奏者福原眞幸さんと、パーカッションのエミュ・レータさんが目を惹きます。福原さんは現在ニューヨーク・スカンディア・シンフォニーのコンマスをされています。

 エミュ・レータさんはエミュ・レータさん。どうやら生きている方ではなさそうですが、アンサンブルの元気はつらつとした演奏に何とも言えない味わいを付加して秀逸です。このバランスがグラスの真骨頂。ダンスという伴侶を得たグラスの音楽が光り輝いています。

Dance Pieces / Philip Glass (1987 CBS)