イギリスの大瀧詠一ことトット・テイラーの名を世に知らしめた作品です。彼はアドヴァタイジングなるバンドでEMIからレコード・デビューを果たしますが、ほどなくソロとしてレコード・ディールを獲得し、1981年に本作品を発表しました。

 トットは英国ニュー・ウェイブ期のお洒落なことこの上ないレーベル、コンパクト・オーガニゼーションの主宰者として知られますが、本作品は同レーベルからではありません。レーベル設立も1981年頃なので、並行して進んでいたものと思われます。

 ただし、世の人々の度肝を抜いたお洒落さんなレーベル・サンプラー、「ヤング・パーソンズ・ガイド・トゥ・コンパクト」には本作品の中から「リヴィング・イン・レゴランド」が収録されています。レーベルの音楽的な性格は本作品ともちろん一体なわけです。

 「プレイタイム」はトット・テイラーと彼のオーケストラ名義のデビュー作です。ジャケット写真、タイポグラフィー、ジャケット裏面の写真と構成、そしてもちろんその音楽、それらすべてが戦前までさかのぼるアメリカン・エンターテインメントを想起させます。

 ここではトットは大勢のミュージシャンを集めてオーケストラと称し、スウィング・ジャズやらビッグ・バンド・ジャズ、ジョージ・ガーシュウィンにコール・ポーターといったアメリカンの古き良き音楽を取り入れたといいますか、そのまんまな音楽を展開しています。

 いわゆるロック的な曲は皆無です。そこが当時のニュー・ウェイブ界隈では大いに受けたわけです。ロックじゃなければ何でも良い、という標語が席巻した時代を感じます。そういった空気が人々をカミングアウトさせたと言っても良いでしょう。

 トット・テイラーは昔から映画音楽やジャズを愛好してきたそうで、まさにそうした空気が彼の本領を発揮させたということです。実に楽しげに古き良き時代のサウンドを奏でており、私たちの体内に残っていたポピュラー音楽成分を活性化させてくれます。

 ただし、もちろんトットの音楽は当時の音楽とは異なります。「大英帝国の『粋』がこれでもかと味わえる遊び心溢れた捻くれポップの世界」というキャッチコピーが示す通り、10ccなどを代表とするイギリスの捩じれたポップ成分が濃厚です。

 アルバムはそれこそガーシュウィンに成りきっているインストゥルメンタルの「プレイタイム・テーマ」と「プレイタイム」を最初と最後において、その間に15曲ものきらめくポップ・ソングを連打しています。中では「31ラヴ」のようなちょっとお間抜けな歌など私は大好きです。

 名曲ではありますが、「ディス・タイム・トゥモロー」はコンパクトの歌姫マリ・ウィルソンの歌唱が素晴らしすぎて、本家トットの方は黒幕感が強いのが面白いです。さらにコンピ収録の「リヴィング・イン・レゴランド」のあっけらかんとした軽さもいいです。

 トットは後にテレビ・ドラマや映画のサントラ、Xboxのゲーム、バットマンなんちゃらの音楽などを手掛けることになります。このアルバムを聴いていた身からすれば、その道行はあまりにも当然の成り行きです。さすがはトット、世間がほおっておきません。

Playtime / Tot Taylor And His Orchestra (1981 Easy Listners)