CDになって大変残念なのはこのジャケットの面白さが伝わらないことです。このアルバムは当時なくはなかったけれども大変珍しい10インチで発表されました。それでは陳列しにくいということで段ボールの枠が付けられていました。斬新なものでした。

 CG時代になってさらに伝わりにくいのはジャケット写真そのものです。当然CGだと思って、本当に人形を作って並べてあるんだということに気付かない人も多いのではないでしょうか。よくもこれだけ作ったものです。まあ「増殖」ですから。

 YMOフィーバーが巻き起こっていましたから、レコード会社はできるだけ早くマネタイズすべく、ライヴ第二弾の発表を企画しました。確かに前作には「テクノポリス」も「ファイヤークラッカー」も収録されていませんでしたから、それもありだったのでしょう。

 しかし、そこは大物揃いのYMOです。新人ではないので、そうそう言いなりにはなりません。レーベル側とアーティスト側が話し合ったあげく、早々に新作を出すことは決まりました。細野晴臣はこれを10インチで企画します。SP盤好きだったからというのも大きいようです。

 このアルバムの特異な点は10インチのサイズばかりではありません。収録曲の合間にスネークマンショーによるコントが収録されており、YMOとスネークマンショーのコラボになっていることです。このコラボが見事な相乗効果を生んでいます。

 スネークマンショーは、「アメリカン・グラフィティ」でも活躍していたウルフマン・ジャックのショー的なものを作ろうと始まったラジオ番組でした。音楽番組ではありますから、YMOとの親和性は高く、まるで昔から表裏一体だったかのような抜群の相性です。

 このコント、いわゆるお笑いとは異なる、ちょっと洒落た、アメリカンの入ったものです。モンティ・パイソン的でもあります。今の時代ならばユーチューブにぴったりな尺であり、内容です。リアルタイム世代には今でも面白いですが、若い人はどう思うのか知りたいものです。

 YMOの音楽の方は、アメリカでのシングルにする予定で先に録音されていた「ナイス・エイジ」と「シチズンズ・オブ・サイエンス」に加えて、新たに「マルティプライズ」「タイトゥン・アップ」「ジングルYMO」「ジ・エンド・オブ・エイジア」の4曲です。

 シングルカットされたのは「タイトゥン・アップ」で、もともとはフィリー・ソウルのアーチー・ベル&ザ・ドレルズのヒット曲です。そこに♪ジャパニーズ・ジェントルマン・スタンド・アップ・プリーズ♪と皮肉をかまし、ミック・ジャガーを喜ばせたという名曲に仕上げました。

 スネークマンショーとの曲におけるコラボも決まっており、YMOらしさが全開になりました。一方、「マルティプライズ」では、映画「荒野の七人」の音楽が使われ、ラウンジというかモンド的な展開で、デビュー作的な感触です。この感覚がカッコいいです。

 この作品も日本ではあっという間に一位となり、限定盤のはずだったのに、予約だけで捌けてしまったため、限定は解除されました。ここらあたりから、はっきりYMOは文化現象となっていきました。音楽の世界にとどまらない文化アイコンとしてのYMOです。

X∞Multiplies / Yellow Magic Orchestra (1980 Alfa)