日本のポピュラー音楽史を画する一大傑作です。何とそれまで井上陽水の「氷の世界」しか達成していなかったミリオン・セラー・アルバムとなりました。日本のロック界の重鎮たちですけれども、あれよあれよという間の大ヒットには本人たちも驚いたようです。

 デビュー作がセンセーションを巻き起こしたYMOは、「今度はステージングのことも考えて、シンプルでパワフルなものを作りたい。クラフトワークのはがねのようなコンセプトに負けないものをね」とスタジオに入り、出来てきたのがこの傑作でした。

 前作で幅をきかせていたオリエンタルなエキゾチシズムは、本作でも健在ですけれども、力強いリズムに裏打ちされて、ペラペラ感がなくなりました。そして、フュージョンと括られていた前作とはうって変わって、本作はテクノ・ポップの草分けとなりました。

 ボコーダーを使った♪トキオ♪で始まる「テクノポリス」と、3曲目の「ライディーン」はシングル・カットされてどちらも結構なヒットを記録しています。それだけではなくこの2曲は完全にスタンダード化しています。そもそもインスト曲がチャート入りすることは珍しいことだったのに。

 「テクノポリス」は坂本龍一による曲で、当時の日本を席巻していたピンクレディーの曲を解析して出来たものだそうです。となるとこの曲は筒美京平の孫ということになるでしょうか。高橋幸宏の「ライディーン」ほどではありませんが、歌謡テクノの色が濃い曲です。

 この2曲を含むA面はインストゥルメンタル・サイドです。歌謡テクノに挟まれているのは、前作の流れを汲むサンディーが参加する「アブソリュート・エゴ・ダンス」、「サスペリア」を仮タイトルとしていた映画を思わせる坂本らしい怪しい電子音楽です。

 B面のボーカル・サイドが問題です。最初の「ビハインド・ザ・マスク」はマイケル・ジャクソンがカバーしたいと言ってきたのに断って後悔しているという曰く付きの曲です。この曲だけ、欧米での観衆の反応が全く違ったそうで、本人たちにも理由は分からないそうです。

 洋楽と邦楽のリズム感の差ということなのでしょう。その話を聞いてから30年以上経つわけですが、ずっと私の頭にこびりついている話です。それ以来、この曲には真剣に向き合ってきましたが、結局、結論は出てきません。

 続くオーティス・レディングのビートルズ・カバーをディーヴォ的に処理したとされる「デイ・トリッパー」、実は私が一番好きなクラフトワーク的な曲「インソムニア」、最後にデジタル・パンクと自称するアルバム・タイトル曲と捨て曲がありません。

 私は本作品を生まれて初めてのパチンコ景品として入手しました。YMOにはわだかまりがあり、批判的に眺めていましたけれども、景品に選ぶくらいには気にはなっていたということです。それなのに、結局、この作品にはすっかり取り込まれてしまいました。

 ディスコというよりも英国ニュー・ウェイブの香りが立ち上るテクノ・ポップを、力強いリズム・セクションが背骨を通し、華麗な上物で飾っていく。しかも歌謡曲的な下世話さは忘れない。世間でいうYMOはこのアルバムを頂点とします。名盤です。

Solid State Survivor / Yellow Magic Orchestra (1979 Alfa)