ポール・サイモンは2000年に結構高く評価された「ユー・アー・ザ・ワン」を発表して以降、アルバムのプロモーションに精を出しますが、それが一段落した後、あろうことかまたまたサイモンとガーファンクルを復活させます。2003年、2004年のオールド・フレンド・ツアーです。

 アルバムも発表されたついでというわけではないのでしょうが、ポールのソロ作品もリマスターされて再発されました。ちょっとしたブームになっていたわけです。こうした時期を過ごした後にやってきたのがこの「サプライズ」です。確かに驚きの一枚です。

 その驚きはブライアン・イーノによってもたらされました。本作品には全面的にイーノが係わっています。イーノは各楽曲に「エレクトロニクス」とクレジットされているだけではなく、ポールのプロデュース表記の下に「ソニック・ランドスケープ」と記載されています。

 言い得て妙です。スタジオ全体を楽器として使うイーノが、このアルバムの音響風景を描き出しています。ワールド・ミュージック期はもちろん他のソロ作品とも一線を画したサウンドが聴こえてきます。とはいえ、実にイーノのサウンドなので、私には耳なじみが良いです。

 その最大の特徴はギターのサウンドでしょうか。ポール・サイモンのアコギ中心の鋭いサウンドに比べると、U2的とも言えるエレキの揺れるような響きが目立ちます。ヌグイーニのリンガラ・サウンドとも違います。ポールのギターであることを考えると大きな変化です。
 
 ギターはほぼポールです。一曲だけ名ジャズ・ギタリスト、ビル・フリーゼルが参加していることと、唯一イーノが加わっていない曲でヴィンセント・ヌグイーニが参加していること以外は全曲ポールがいつになくギターを弾きまくっています。

 イーノとのコラボとしては最初に出来た曲「ウォータイム・プレイヤーズ」には、ジャズ界の大物ハービー・ハンコックがピアノで参加しています。このピアノがなかなか渋くてカッコいいです。他にもジャズ畑のミュージシャンが多いことも特徴でしょうか。

 ポールはこの頃には最初にリズム、次いでメロディー、そこから歌詞という順序で曲作りをしていたそうです。本作でのリズムはワールド・ミュージックとは一味違って、クラブ・ミュージック的でもありますから、その点でもイーノ他の影響があったのでしょう。

 そのリズムを叩いているのは相変わらずスティーヴ・ガッドです。何でもできる人です。そこにピノ・パラディーニやアブラハム・ラボリエルなどタイプの違うベーシストが絡み、見事にポールの要求にこたえています。半端ないリズム・セクションです。

 イーノが絡んでいない「ファーザー・アンド・ドーター」はアニメ映画の主題歌として発表されていた曲で、そこはかとなくポールの息子エイドリアンがボーカルで参加しており、アカデミー歌曲賞にノミネートされました。イーノのソニックはありませんがなかなかいい曲です。

 ジェシー・ディクソン・シンガーズも参加するという落ち着いたリユニオンも楽しい、なかなかの名作だと思います。米国ではトップ20ヒットとなっていますし、英国では4位となるヒットです。しかし、日本ではポールのファンには受けず、まるでヒットしなかったようです。

Surprise / Paul Simon (2006 Warner Bros.)