20世紀の最後に発表されたポール・サイモンの作品です。この作品は2001年のグラミー賞の最優秀アルバムにノミネートされ、ポールは1960年代、70年代、80年代、90年代そして2000年代にそれぞれ同賞にノミネートされるという大記録を達成しました。

 後にポール・マッカートニーに並ばれることになりますが、いずれ劣らぬスーパースター同士、息の長い活動こそがスーパースターの証しとばかりその活動は続いていきます。両ポールは、人気に陰りが出ても、いつの間にか盛り返しているところが凄いです。

 本作では冒頭に「ザッツ・ホエア・アイ・ビロング」というタイトルの曲を持ってきており、一般に原点回帰のアルバムとして捉えられています。ワールド・ミュージック路線はそれはそれで素晴らしかったのですが、居心地悪く感じている人も多かったようです。

 その上にミュージカルでの失敗が重なり、ポールの音楽から遠ざかっていた人も多かったことでしょう。そこに起死回生の一発です。残念ながら日本では不発に終わったようですけれども、グラミー賞へのノミネートは伊達ではありません。セールスも盛り返しました。

 しかし、けして昔に戻ったわけではありません。それは参加ミュージシャンからも分かります。ギターはカメルーン出身のヴィンセント・ヌグイーニ、ベースは南アフリカのバキティ・クマヨとメキシコのアブラハム・ラボリエルの二人、ドラムはお馴染みスティーヴ・ガッド。

 主要メンバーだけ見ても南北アメリカとアフリカを折衷した構成になっています。これまでのポールの音楽遍歴を十二分に消化した上での原点回帰、ことさらにワールド・ミュージックを標榜するのではなく、すでに血となり肉となった世界の音楽が発露しての原点回帰です。

 昔からのファンにとってみれば、落ち着いてポール・サイモンの歌に耳を傾けることができる安心のアルバムです。そして一たび演奏に集中すると、そこには世界各地の音楽のエッセンスが楽しめるという寸法です。両者が張り合うのではなく、ポールの歌を支える構図。

 思うにポール・サイモンという人は他人とのコラボレーションが苦手なんではないでしょうか。映画やミュージカルなど大人数が必要な作品は失敗していますし、ワールド・ミュージック路線も二枚看板ということにはならない。アート・ガーファンクルのみが例外です。

 その意味では本作でのワールド・ミュージックはこれまでで一番しっくりきます。素直にポールのサウンドに対するセンスの良さを堪能させてくれます。ただし、ボーカルにやや元気がないように感じるのが玉に瑕です。やはり歳をとりました。

 全体を貫くテーマがあるコンセプト・アルバムではなく、この時期に作った歌のうち、いい歌を並べてみましたという風情がいいです。特に目立つ曲があるわけでもないのですが、どれもこれもキラッと光るいい曲ばかりです。その意味でも原点回帰でしょうか。

 最後の曲「クワイエット」はアンビエント的なサウンドスケープが展開する異質な曲です。後付けの知恵から申し上げると、これは次のアルバムでブライアン・イーノと共演することへの布石ではないでしょうか。ポールの音楽的探究心は決して収まったわけではありません。

You're The One / Paul Simon (2000 Warner Bros.)