「コルホーズの玉ねぎ畑」、略して「コル玉」は人気声優「すみぺ」こと上坂すみれの公式ファンクラブの名前です。何でこんな名前を。素直に驚きました。遠藤ミチロウ賛の私としては、これだけで上坂が何者か大変気になってしまいました。

 さらに上坂はロシア愛を語って上智大学に合格したというロシア・マニアの一面も持ち合わせています。アイドルのお遊びの域を超えていることは、彼女がかの亀山郁夫先生と対談などをしているという事実を指摘すれば分かるというものです。

 本作品は「20世紀の逆襲」から2年半ぶりに発表された上坂のサード・アルバムです。前作以降にリリースされたシングル曲などの他に新曲を7曲収録した作品で、初回限定盤にはMVとメイキングを収めたブルー・レイ・ディスクがついています。

 ご本人によれば、本作品の「コンセプトというのは特にないのですが、お買得です」。確かにそのようです。アニメ「ポプテピピック」のOPテーマ「ポップ・チーム・エピック」や、同じくアニメ「アホガール」のEDテーマ「踊れ!きゅーきょく哲学」などが収録されています。お買い得。

 それに全16曲はほとんどサウンド・プロダクションを主導した人物が被りません。それぞれ統一コンセプトなどまるでなしに作っている模様です。それも、かろうじて掟ポルシェの名前を知っているくらいで、まるでこれまで縁のなかった人々ばかり。新鮮です。

 アルバム・タイトルは「『花嫁は死神』みたいな語感にしたくてこうなりました」そうです。「ノーフューチャーかつバカンスな状態」を指すということです。ビートたけしの映画「ソナチネ」がそんなコンセプトでした。「死ぬしかない男たちの夏休み」。カッコいいです。

 そのタイトル曲は「菊池桃子さんのラ・ムーが好きで、『TOKYO野蛮人』のイメージで作っていただきました」ということです。なぜに菊池桃子。時代軸がまるで狂っていて、コル玉といい、ますます彼女に対する興味が湧いてきます。

 そんな一曲完結型楽曲ばかりで、幅広さは特筆すべきものがあります。EDMからシティ・ポップ、テクノにディスコ、バラードとサウンド面での幅広さに加えて、歌詞の振れ幅も大きい。♪声優アイドル泥レス大会♪や♪よっぱらっぴ♪から本格派ラブ・ソングまで。

 さすがに声優さんは器用です。それぞれの曲の世界観を表現するにあたって、主人公になり切って声を変えて演じています。♪鴎外vsドストエフスキー♪なんていう歌詞を違和感なく表現できるのは声優として名高い上坂くらいしかいないでしょう。

 サウンドのはじけ具合もちょうど良いです。それぞれのクリエイターがやりたい放題やっているわけですが、その逸脱ぶりはまさにちょうど良いです。先鋭的な冒険を繰り広げるというよりも、分かりやすいハチャメチャぶり。

 上坂が一番好きなのは「リバーサイド・ラヴァーズ(奈落の恋)」だそうです。しっとりとしたテクノ曲で、テクノボーイズ・パルクラフト・グリーンファンドが手掛けています。調べてみるとなかなか面白い人達です。これも上坂の引力ですか。やはり只者ではありません。

参照:直筆インタビューHMV

No Future Vacances / Uesaka Sumire (2018 キング)