世に名高い「シェルターが誇る静かなるブルース・マン」JJケイルのデビュー・アルバムにして最高傑作です。わずか30分ちょっとのアルバムですけれども、その静かに圧倒的な魅力には抗いがたいものがあります。しみじみ良いアルバムです。

 1938年生まれのケイルは1950年代にはすでにウェスタンのバンドでプロのギタリストとして音楽活動を始めていました。やがてロックンロールが浸透してくると、ジョニー・ケイル・アンド・ザ・ヴァレンタインズを率いて活動、その後ナッシュヴィルでカントリーもやっていました。

 どれもぱっとせず、1964年には同郷のレオン・ラッセルの勧めでロスにやってきます。そこでバーで演奏したり、スタジオで働いたり。サイケなポップ作品に参加したり、シングル盤を出したりしますが、結局成功することはできず、故郷タルサに戻ってしまいました。

 ここで「自分の家の裏庭から石油が出たようなもんだ」と回想する出来事が起こります。それはスーパースター、エリック・クラプトンがケイルの「アフター・ミッドナイト」を取り上げ、シングル・ヒットさせたんです。これによりケイルの運命は激変します。

 プロデューサーのオーディー・アシュワースはケイルをナッシュヴィルに招き、本作「ナチュラリー」を録音します。出来上がったテープはレオン・ラッセルの元に送られ、彼のシェルター・レコードからめでたくリリースされる運びとなりました。

 いかにも急ごしらえのアルバムで、中には安っぽいドラム・マシーンを使っている曲もあります。シンプルなことこの上ないサウンドで、もともとはデモ録音のつもりだったのではないかと考えてしまいます。レオン・ラッセルがそれを面白がってリリースしたのではないかと。

 しかし、それが返って良かった。唯一無二のケイル・サウンドがここに確立することになりました。力の抜け具合がレイド・バックと呼ばれそうですけれども、どこかこの世のものとも思えないサウンドは時代で語れません。不思議な魅力が横溢しています。

 参加しているミュージシャンは、ケイルの長年の友であり、クラプトンとの仕事で知られるカール・レイドルもいますが、多くはその場で集められた腕利きスタジオ・ミュージシャンです。ですから、場所と時間によってメンバーががらりと変わっています。

 しかし、そんな彼らの演奏は素晴らしいです。決して名人芸をひけらかすようなことはせず、時にはリズム・ボックスにリズムをまかせて、あくまで控えめにケイルの歌とギターに寄り添っています。そこから醸し出される親密なグルーヴが何とも言えません。

 ブルースを基調としたシンプルな曲を、ケイルがゆるくて渋い歌とギターで演奏する。それを支える腕利きたち。石油曲「アフター・ミッドナイト」にヒット曲「クレイジー・ママ」はもちろんですが、その他の曲も捨て曲がない。ジャケット通りのゆるさがたまりません。

 アルバムはその後の息の長い活動の礎となりました。本作品は全米51位とそこそこのヒットになりましたし、シングル・カットされた「クレイジー・ママ」は22位となりました。ヒット・チャートの似合わないケイルですけれども、本作品はチャートでも活躍したわけです。

Naturally / J.J.Cale (1971 Shelter)