時代を画した傑作「グレイスランド」から4年、ポール・サイモンの新作はその名も「リズム・オブ・ザ・セインツ」。ジャケットを見ただけで、前作の路線を踏襲していることが分かります。いや、さらに徹底したサウンドが出てくるものと皆がそう思いました。

 この4年間にワールド・ミュージックはすっかりブームになり、世界各地の大衆音楽が日本や欧米に大挙して紹介されました。火付け役の一人でもあるポールですから、本作への期待はいや増しに増していたものでした。

 結果は期待に違わぬワールド・ミュージックぶりで、前作よりもその存在感がさらに増しています。それは恐らくパーカションの活躍が目立つからだと思います。やはりワールド・ミュージックの真骨頂はリズムです。本作はそこが濃い。

 前作は南アフリカ中心だったのに対し、本作品ではブラジルが中心になっています。最初の曲「オブヴィアス・チャイルド」では、いきなりブラジルのバイーア州から文化集団オロドゥンが登場して、ブラジリアン・リズムを堪能させてくれます。

 グループで参加しているのはオロドゥンの他にウアクティがあります。こちらは手作り楽器を使うパーカッション集団です。こちらもブラジル出身です。彼らはマンハッタン・トランスファーのアルバムに参加したところをポールに見初められての参加です。

 さらにブラジルのシンガーソングライター、ミルトン・ナシメントが1曲共作してますし、イーノのアルバムにも参加していたパーカッショニスト、ナナ・ヴァスコンセロスも全面的に参加、数多くのブラジリアン・ミュージシャンが参加しています。

 ブラジルばかりではなく、本作以降長年にわたりポールと行動を共にするギタリストのヴィンセント・ヌグイーニはカメルーン出身です。前作で欧米でも名が知れたレディスミス・ブラック・マンバーゾやフルーゲルホーンのヒュー・マセケラなどは南アから参加です。

 迎え撃つ米国勢は渋いJJケールやお馴染みのスティーヴ・ガッド、エイドリアン・ブリューにブレッカー・ブラザーズなどとなっています。もう参加アーティスト紹介だけでほとんど終わってしまいそうになるほど、多彩なミュージシャンが参加しています。

 本作はブラジル録音を元にニューヨークで手を加えた形で制作されています。サウンドは、パーカッションが活躍するアフロ・ブラジル・スタイルなのですけれども、ポールのギターとボーカルはどこをどう切ってもサイモン節です。

 ボートラ所収のアコースティック・デモを聴くと、まるで違和感がありません。おそらくは全編弾き語りでもおかしくない曲ばかりです。演奏は生々しい本格的なアフロ・ブラジリアン・サウンドで、こちらもボーカル抜きでも成立しそうです。そこが毀誉褒貶の原因なのでしょう。

 本作品は英国で1位、米国で4位となる成功を収めましたが、Jポップ全盛の日本ではさほど売れませんでした。またシングル・カットされた曲はあまりヒットしていません。腰を落ち着けてアルバムを聴く年齢の高い層に受け入れられた作品といえるでしょう。

The Rhythm Of The Saints / Paul Simon (1990 Warner Bros.)