サイケの大物メイヨ・トンプソンにもデビュー作がありました。当たり前のことですけれども、なぜか不思議な感じがします。この時、トンプソンはまだ23歳。トンプソンにも20代の頃があったんですね。これまた当たり前ですけれども、何だか新鮮です。

 レッド・クレイオラは後にほとんどトンプソンと同義になってしまいますが、このデビュー・アルバムの頃はもちろんバンドです。赤いクレヨンという可愛らしい名前のこのバンドは、テキサス州ヒューストンの大学生3人によって結成されました。

 中心人物はギターとボーカルのメイヨ・トンプソンで、後の二人はベースのスティーヴ・カニンガムとドラムのフレデリック・バーセルミ。このバーセルミ、自身も後に作家として成功しますが、兄はなんとドナルド・バーセルミです。「口に出せない習慣、奇妙な行為」は傑作でした。

 彼らはヒューストンでサイケデリック/エクスペリメンタル・ロック・バンドとして活動を開始します。サイケの雄13thフロア・エレヴェイターズとは時代も地元も被っており、早々に彼らと同じインディー・レーベル、インターナショナル・アーティスツと契約を結ぶこととなりました。

 そうして、その翌年、1967年に発表されたのがこのデビュー・アルバムです。アルバム名義はザ・レッド・クレイオラ・ウィズ・ザ・ファミリア・アグリーとなっています。このファミリア・アグリーは地元のアーティスト集団で、メンバーは50人ほどいたそうです。

 アルバムの構成はレッド・クレイオラによる曲が6曲、それぞれの曲の前後に「フリー・フォーム・フリーク・アウト」と題されたファミリア・アグリーとの即興演奏が配置されます。曲のカウントとしては7曲もの同名曲が存在することになります。曲間はほとんどありません。

 さらに13thフロア・エレヴェイターズからはロッキー・エリクソンがオルガンやハーモニカで参加しています。エリクソンを含むレッド・クレイオラの楽曲は、サイケデリック全開のロックです。トンプソンのボーカルも若々しいですし、爽快に突っ走る気持ちの良い曲が多い。

 ポップな感覚がある中で、アルバム・タイトル曲はインストゥルメンタルでやや異質です。実験的なサウンドが洪水のように押し寄せています。ただし、それでも若々しい汗の飛び散るサウンドであることには違いありません。気持がいいです。

 「フリー・フォーム・フリーク・アウト」はフリー・フォームな即興演奏を編集したもので、タイトルからしてザッパ先生を意識していることは間違いありません。特にA面などは完全即興でしょう。てんでばらばらに、どしゃどしゃ賑やかに音が溢れかえります。

 ジャズの即興などとは異なり、素人が好きなように演奏している様子で、張り詰めた緊張感とは無縁の、お祭りのような楽しい演奏が続きます。タイトル曲の次のフリーク・アウトだけは異質で、妙なボーカル曲です。これも曲調とは裏腹に何だか楽しげです。

 この時代ですから録音はよろしくないのですが、そのバタバタした感じもアルバムの雰囲気にぴったりです。サイケデリック時代のレッド・クレイオラ、メイヨ・トンプソン。まだ大学生に毛の生えた若者たちの果敢な実験精神によるお祭りはとにかく楽しそうです。

The Parable Of Arable Land / Red Crayola (1967 International Artists)