もはや父親のような気分で寺久保エレナのCDが出るたびに買っている私ですけれども、残念ながらまだライヴに接することが出来ていません。毎回、間が悪いことにスケジュールが合わない。そんな訳ですから、ライヴ・アルバムの発表はとても嬉しいです。

 まず、そこを褒めるのかと突っ込まれそうですが、素晴らしい録音です。2019年1月14日に新宿ピット・インで行われたライヴの録音はとても鮮烈な音像で、素直に感動しました。失礼ながらピット・インなのに、と思ってしまいました。技術の進歩は凄いですね。

 「アブソルートリー・ライヴ!」は寺久保エレナ・カルテットによるツアーの記録です。前作「リトル・ガール・パワー」発表後、同作を録音したカルテットは精力的に国内ツアーをまわりました。本作は2019年1月9日から14日の全国ツアー後半戦最終日の模様です。

 メンバーは寺久保のサックス、片倉真由子のピアノ、金森もといのベース、高橋信之介のドラムという前作と全く同じメンバーです。アルバム制作から全国ツアーをこなしてきたカルテットですから、そのテンションも最高潮に達していたのではないでしょうか。

 前作からの曲が中心かというとそうではなく、前作収録曲は全9曲中、寺久保オリジナルの「リトル・ガール・パワー」と、ジャッキー・マクリーンの「バード・リヴズ」の2曲のみです。後は初めて録音される曲ばかりで、その中にはオリジナル曲が2曲含まれています。

 その2曲のうち、「クライスタル・パス」は「目に見えないしどこに行くのか分からないけど、自分が進んできて、これから進んでいく将来の道というイメージ」、アンコールの「ビー・ナイス」は「とにかく明るく『BE NICE』でいようぜ!」というイメージ。本人の弁です。

 アルバムは「バード・リヴズ」で幕を開けます。曲のタイトル通り、チャーリー・パーカーを思わせるサックスのラインが素晴らしいです。パーカーの最盛期は1940年代後半だと言われ、年齢は25歳から30歳くらいです。ちょうど寺久保もその年齢に手がかかりました。

 いわゆるバップなこの曲でいきなりど真ん中、ストレートアヘッドなジャズの魅力が全開です。これこそが彼女の持ち味です。私の友人などはストレートなジャズは1950年代で終わったなどと言っていますが、それこそ大きな間違いです。ここに生きています。

 寺久保は珍しくソプラノ・サックスも披露しています。ベニー・グッドマンの「ストンピン・アット・ザ・サヴォイ」とチャーリー・パーカーとディジー・ガレスピーの「ショウ・ナフ」です。後者のまたまたパーカーを彷彿させるプレイはカッコいいです。

 「ストンピン~」や「フィエスタ・エスパニョール」を中心に、オリジナルの「リトル・ガール・パワー」もその一角に数えられるラテンっぽさが素敵です。あくまで大衆芸能としてのジャズがいい。端正なカルテットなのに猥雑なエネルギーに満ちているところがいいです。

 「メンバーとの間に大きな信頼関係ができた気がします」というカルテット。ライヴならではの勢いがあって、それぞれのソロに注がれるメンバーの目線も麗しい。クールな演奏でもあり、ホットな演奏でもあり、何とも素晴らしいライヴ、アブソルートリー・ライヴ!です。

Absolutely Live! / Erena Terakubo (2019 キング)