フランク・ザッパ先生の音源を発掘するヴァールターナティヴ・シリーズから英国でのコンサート音源が発表されました。妻ゲイルが倉庫探索係のジョー・トラヴァースに「いいコンサート、それも英国の」と発注して、「よしきた」とジョーがまとめたのが本作です。

 確かにこれまで英国でのコンサートを丸ごと収録した作品はありませんでした。ゲイルのこだわりの理由は何なのか、定かではありませんが、英国におけるザッパ人気を考えると、ファン・サービスの一環としては極めてまっとうな判断でしょう。

 アルバム発表日は11月18日と、ザッパ先生の誕生日が近いことから、本作品には、風船、パーティー・ハット、カップケーキがついています。帽子は紙ナプキンのようなものですし、カップケーキは印刷してあるだけですが、風船はおひげロゴ入りの本物のゴム風船です。

 最大の贈りものはもちろんCDです。何と3枚、ロンドンの地下鉄を模した盤面とパッケージがイギリスへのこだわりを示しています。収録時間は3時間以上、ライヴ盤としてはこれまでで最長の作品です。コンサート丸ごと収録と気合が入っています。

 コンサートは1978年1月24、25日及び2月28日の3日間です。この間、ザッパ・バンドはドイツでライブを行っていますが、それではなくて、英国の三日というところがゲイルのこだわりなんでしょう。会場はアルバム・タイトル通り、ロンドンのハマースミス・オデオンです。

 バンドは1977年秋に出来た新しいものです。直前のツアー・メンバーの中で生き残っているのはドラムのテリー・ボジオとベースのパトリック・オハーンのみで、キーボードが一人増えて二人になりました。「シーク・ヤブーティ」バンドと言える布陣です。

 新たに加入したのは、ギターのエイドリアン・ブリュー、キーボードにはトミー・マースとピーター・ウルフ、パーカッションのエド・マンです。ピーターは本作品に「私はフランク・ザッパのファンではなかった」と始まるものの、結局は先生が大好きだという文章を寄せています。

 このライヴからは傑作「シーク・ヤブーティ」のベーシック・トラックとなった演奏も多いのですけれども、それはあえて外されています。コンサート丸ごと収録ではありますが、3回分をうまくつなげているので、そういう時は別の日の演奏をもってきています。

 先生がMCで語っていますが、本作品の最初の4曲はラジオで放送する予定があったそうで、そのための編集を先生自らが行っています。新バンドも3ヶ月のリハーサルの後、ハロウィーン・ツアーをこなして脂が乗ってきたところ。先生の自信の表れでもあったでしょう。

 演奏は後に発表される「シーク・ヤブーティ」、「ザッパ・イン・ニューヨーク」、「ジョーのガレージ」からの新曲が中心で、そこに「ピーチズ・アン・レガリア」や「キング・コング」、「マフィン・マン」に「ブラック・ナプキン」などのクラシックが入る構成です。

 ザッパ先生のギター・ソロがやや少なめなことと、やや録音が平板な気がするところが玉に瑕ですが、テリーの剛腕ドラム・ソロも堪能できますし、新しく入ったピーターとトミーのキーボード捌きも目立ちます。これはこれで非の打ちどころのない演奏です。カッコいいです。

Hammersmith Odeon / Frank Zappa (2010 Vaulternative)