「浜辺のアインシュタイン」は現代音楽の巨匠フィリップ・グラスの出世作です。オペラ三部作の第一作として制作され、1976年にフランスのアヴィニョン・フェスティバルで初演されました。その後、ヨーロッパをまわり、仕上げにニューヨークで2日間の満員御礼です。

 その後も本作品は繰り返し上演されましたし、この作品を題材とした映画も制作されています。当時ようやく認められだしたフィリップ・グラスが、これまた気鋭の演出家のロバート・ウィルソンと組んで制作した「オペラ」の人気のほどが分かるというものです。

 本作品はオペラのための音楽を1978年にフィリップ・グラス・アンサンブルが録音したものです。4枚組165分間に及ぶ超大作です。かなり長いように思われますけれども、舞台の方は4時間休憩なしだそうですから。CDなど短いものです。

 舞台は4幕からなり、最初と最後、そして幕間は5曲の「ニー・プレイ」で繋がれています。4幕を通して、繰り返し出てくるテーマは「列車」「審判」「宇宙船」です。それぞれに音楽が割り当てられ、全体を一つの作品としてしっかりとまとめています。

 ウィルソンはオペラという言葉を使っていますけれども、普通に考えるオペラからは程遠く、コーラスとナレーションによる現代劇です。歌われる言葉は数字であったりソルフェージュであったりしますし、朗読されるのはストーリーではありません。

 アインシュタインは歌詞には出てきませんが、彼自身もたしなんだというバイオリンを弾くポール・ズコフスキーが一人離れて立っており、ポールがアインシュタイン役だろうとグラスは書いています。見ていないので舞台の話はよく分からないのが残念です。

 音楽はズコフスキーとフィリップ・グラス・アンサンブルが演奏しています。このアンサンブルはグラスと相性の良いマイケル・リーズマンが指揮をとる5人の演奏者と18人の歌手から構成されています。フィリップ・グラス自身はオルガンでの参加です。

 グラスの説明によれば、ここではリズム構造をベースに和声構造に直接つなげるアプローチをとっています。その際、調性や旋律にリズムが優先するということで通常の西洋音楽の逆を行っています。全編、これリズムの洪水であるということです。

 面白いことに打楽器はまるで使われておらず、声とバイオリン、オルガンを中心にホーンが少々という編成です。通常、旋律を奏でる楽器群がとにかくリズムを優先して演奏を繰り広げる。シンセも少し使われていますが、基本はアナログな楽器ばかりです。

 ビートという感覚ではまるでなくて、ミニマルな旋律がリズムになっている、そんな音楽です。3時間弱もの長丁場ですけれども、サウンドによる見事な構造が現出しており、よくもここまで緊張感が持続するものだと思います。

 アルバムの最後は「公園のベンチに座る恋人たち」という甘い甘い詩の朗読で終わります。これがカタルシスになっているのは面白いです。「渚にて」と「アインシュタイン」という核で結びつくイメージをタイトルとした作品では、やっぱり最後に愛が勝つんです。

Einstein On The Beach / The Philip Glass Ensemble (1979 CBS)